介護業界の人手不足の原因|5つの手段と採用対策・定着成功事例・解消方法

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更新日:2024/09/13

現在、介護業界では人手不足や従業員の不足に悩む事業所が少なくありません。人手不足の要因は、少子高齢化に加え、介護業界の仕事のイメージや給与水準などが深く関係しているようです。ここでは介護業界における人手不足の現状や解消するための手段、実際に解消した事例などを解説しています。

介護業界の人手不足の背景と現状

日本の介護業界は高齢化社会と少子化の影響により、深刻な人手不足に陥る可能性があります。

日本の高齢化は急速に進行しており、統計局の調査によると「2022年時点で65歳以上の人口は約3627万人で、全人口に占める割合は29.1%」に達しました。

高齢化率は今後も上昇し、2070年には38.7%になると予測されています。

また厚生労働省の調査によると、介護人材において「2025年度には約32万人、2040年度には約69万人の人手不足」が予測されています。高齢化により介護需要が増える一方、少子化により労働力人口が減少しているため、人材確保は容易ではありません。

2021年の合計特殊出生率は、1.30と過去最少の値を示しており、人口減少に歯止めがかからない状態です。生産年齢人口は1995年をピークに減少しており、日本における労働力不足の深刻化が懸念されています。

当然ながら、介護サービスを提供するための労働力においても生産年齢人口減少の影響を避けることはできません。

さらに、介護職に対するマイナスなイメージも人手不足に影響を与えています。

介護業界の人手不足問題の原因

高齢化と少子化以外にも以下のような原因で介護業界は人手不足の問題を抱えています。

仕事内容が大変というネガティブなイメージ

介護職の仕事は、高齢者や障害者の日常生活を支える重要な役割を果たしています。しかし、ネガティブなイメージを持つ人も少なくありません。

介護職の仕事に対して「3K」という言葉がしばしば使われますが、これは「きつい」「汚い」「危険」の頭文字を取ったものです。

介護職の労働に対するネガティブなイメージが集約されていると言っても過言ではありません。

介護職の仕事は、肉体的にも精神的にも負担が少なくありません。主な理由は、高齢者の身体介助や移動支援など、重労働が日常的に求められるためです。また、利用者とのコミュニケーションや感情労働も精神的なストレスになります。夜勤の有無も心身の負担になることから「きつい」イメージへの影響は否定できません。

また、排泄介助やおむつ交換など、他人の排せつ物を扱う業務があります。これは、重要な仕事であり、避けては通れません。しかし、それにより「汚い」仕事というイメージがつきまといます。

さらに、業務の中で転倒や感染症などのリスクを伴います。たとえば、重度の要介護者の移動や移乗の介助をする場合、要介護者と共に転倒する可能性があります。また、狭い施設の中で身体に触れたり、近い距離で会話したりする必要性があることから感染の「危険」といったリスクも高い仕事だとイメージが付くのでしょう。

このような介護業界の仕事に対するイメージの低さも軽視できません。過酷な労働条件がイメージされる「3K」というワードが一般に広まっており、介護職の人気に影響を与えています。

仕事内容と給与水準のアンバランス

介護職の仕事は肉体的、精神的に厳しいものであり、職場環境によっては24時間体制でのシフト勤務や休日出勤が求められることもあります。このような過酷な仕事内容に対して、給与水準は他の専門職に比べて決して高くありません。

厚生労働省の統計によると、介護士の給与は全産業平均より低い水準を示しています。具体的には、2020年の平均月収(役職者以外で賞与など含む)は介護職員で29万3000円で、全産業平均月収の35万2000円を大きく下回りました。

この数値は、介護職の仕事が肉体的、精神的に厳しいものでありながら、その労働内容と給与水準に大きなアンバランスが存在することを示すものです。

仕事内容と給与水準がアンバランスな要因として「介護労働の重要性が社会的に十分に評価されていないこと」や「介護保険制度の財源問題」などが背景にあると考えられます。介護は専門的な知識や技術を必要とする専門職ですが、その価値が十分に認識されていないと感じる人も少なくありません。

これらの問題を解決するためには、介護職の待遇改善や労働環境の改善の必要性が指摘されています。また、社会全体で介護労働を評価し、人材確保の観点からも価値を見直す必要性があるとされています。

「離職率が高く定着しない」と思われている介護業界

厚生労働省によると、2021年度の介護職の離職率は全産業の平均を0.2ポイント上回る14.1%でした。また、2020年には過去最低となる14.9%となりました。訪問介護員、介護職員の離職率は15.4%であると報告されています。

令和4年度の介護労働実態調査では、介護職全体の平均離職率が14.4%で、前年度調査から0.1ポイント上昇したことが報告されました。

前年度から0.1ポイントの上昇はあるものの、他産業の離職率と比較して、介護職の離職率は大幅に高いとは言えません。

しかし、一般的に「介護職は仕事がきつく離職率が高い」というイメージがあり、求人への応募の心理的妨げになっている可能性はあるでしょう。

人手不足に先手を打つべき理由

介護業界では人手不足が深刻な問題となっており、人手不足に先手を打つ必要があります。人手不足に先手を打つべき理由を解説します。

経営に支障が出る

人手不足が慢性化すると、利用者の受け入れが難しくなり、事業を継続することが出来なくなってしまいます。また、深刻な人材不足は、対応できる利用者を減少させ、収益を縮小させてしまいます。さらに、人材確保のために多くの媒体に広告を打ったり、いくつもの人材紹介会社に登録したりすると、支出の増大につながり、経営を圧迫してしまうでしょう。

人員基準が満たせない

慢性的な人手不足が続くと、業態に応じた必要な人員基準を満たすことができなくなる可能性があります。人員配置基準が満たせない場合は「人員基準違反」ですので、そのようなことが起きないよう早めに人員確保に動き、サービス提供が滞らないよう注意しましょう。

介護業界の人手不足を解決するための手段

人材を確保するためには以下のような手段を検討し、事業所に合った施策を入れることが大切です。5つのテーマで解説しますのでご参考ください。

デジタル化で働きやすい環境を作る

デジタル技術の活用は効率的な業務運営において有効です。デジタル技術を利用することで、介護職の負担軽減につながります。

たとえば、スケジュール管理や報告書作成などの業務の一部を個別環境に合わせたソフトを導入してデジタル化・自動化したと仮定しましょう。デジタル化によって事務作業が減り、介護職が本来の業務に専念できるようになります。

外国人介護人材の受け入れ

介護業界の人手不足問題は深刻で、その解決策として「外国人介護人材の受け入れ」が注目されています。

言語や文化の壁はありますが、外国人介護人材を受け入れることによって人材確保ができます。しかし、さまざまな条件や制約、費用もかかることなどから、介護現場では外国人介護人材の受け入れは難しいとの声も少なくありません。

しかし、成功している事例は存在しています。

たとえば、特別養護老人ホーム2施設を運営する社会福祉法人千里会(横浜市)の事例では、EPA制度(ベトナム・フィリピン・インドネシアの3国と結んだ経済連携協定)がスタートした翌2009年より、インドネシア人を中心に介護福祉士候補者を受け入れてきました。現在、介護福祉士合格者23人、候補者26人、特定技能1人の計50名が2つの特養で働いています。

現場リーダーとして活躍している外国人介護人材の方は6名にもなるとのことです。条件や制約などは確かに存在していますが、適切なサポートをすることで外国人介護人材が貴重な戦力となり得るとわかる事例です。

参考:人手不足の「介護業界」外国人材は定着するのか 文化や習慣などを理解し教育することが大切だ | 家庭 | 東洋経済オンライン 

介護福祉士資格取得による定着率アップ

介護福祉士資格の取得は、介護職員のキャリアアップと定着率向上に大いに寄与します。資格取得はキャリアアップモデルの一部として位置づけることができ、キャリアの道筋を示しやすくなるでしょう。

厚生労働省は「実践キャリア・アップ戦略」という職業能力を評価する制度を発表しており、その中の1つである「キャリア段位制度」が参考になりますので以下に解説します。

キャリア段位制度は、職業能力を評価する「共通のものさし」をつくり人材育成を目指す制度です。知識と実践的な能力の両面を評価し、レベル1〜7までのキャリア段位の認定を行います。

知識や実践的な能力については、現場で評価できる内容のみでは判断しません。介護福祉士のような既存の国家資格制度を考慮して評価されます。

このようなキャリアに関する制度があると、介護職員は自分の将来を描きやすくなるでしょう。また、長期的な視点で職場に定着する意欲が高まります。

さらに、資格取得は給与や待遇改善の評価も行いやすくなります。高位のキャリア段位を持つ職員に対して手当てを支給したり、昇進の機会を提供するなどの判断の材料となります。

キャリアに関する取り組みは、介護業界で働く人々が自分のスキルを伸ばし、自己実現を達成するために欠かせません。このようなキャリア支援制度が、定着率向上によい影響を与える要素となり得ます。

人材派遣業者とのつながりを持つ

介護事業所が人手不足を解消するために人材派遣業者とのつながりを持つことも重要になります。

人材派遣業者は、急な欠員やスタッフの増員が必要になった際に、迅速に人材を提供することができます。求人を出してもすぐに応募が集まらない場合や、短期間で複数人の人材を確保する必要がある場合に特に有効となるでしょう。

また、人材派遣業者は専門的な知識や経験を持つ人材を提供することが可能であり、介護事業所はそのような人材を活用することでサービスの質を向上する取り組みも検討できます。

たとえば、介護職員が同時に複数名離職した場合、一時的に人材派遣業者から人材を提供してもらうことで介護サービスの継続が可能になるケースも考えられるでしょう。

また勤務形態の都合上、常勤の8時間勤務が合わない業務がある場合などにおいても、人材派遣業者からの人材提供によって必要な部分のみの人材確保をすることも可能です。

人材派遣業者とのつながりがあることによって、不測の事態を含めたさまざまなケースにおいて人材不足の解消に対応できます。

介護に特化した成果報酬求人サイトの利用

介護業界の人手不足問題を解決するためには、介護に特化した成果報酬求人サイトの利用も有効でしょう。

介護業界用の求人サイトは、介護職員を探している事業所と、介護職を求める求職者をつなげるプラットフォームです。これらのサイトは、全国の介護事業所からの求人情報を掲載しており、求職者は自分の希望する条件(勤務地、給与、職種など)に合った求人を探すことができます。

また、成果報酬型の求人サイトでは、事業所は求人情報を無料で掲載でき、求職者が実際に採用された場合にのみ料金が発生します。これにより、事業所はある程度リスクを抑えつつ効率的に人材を確保することができるでしょう。

人手不足解消の採用成功事例

以下に3つの人手不足解消の成功事例を紹介しますのでご参考ください。

未経験者による介護助手

・社会福祉法人 聖マルチンの家での「未経験者による介護助手」の取り組み概要と取り組みによる効果を紹介します。

 聖マルチンの家では、地元での就職者不足と介護人材確保の難しさから、介護助手などの採用に取り組んだ経緯があります。「自治会の掲示板」「知人や元職員による紹介」「ハローワークを活用」して関心者を募集し、島内の介護助手等3名を雇用(60代2名、70代1名)しました。

事前準備として以下の3つが行われました。

  • 職員全体への受け入れ方針説明
  • 協力体制の構築
  • リーダーによるサポート体制の整備

新しい職種である介護助手等に対しては「リーダーによるサポート体制」と「マニュアルの提供」が行われました。これにより、介護助手等の業務のスムーズな遂行が可能となります。

介護助手等の業務の切り分けが行われた後、特定の業務が明確に割り当てられ、職員の意見を反映した業務改善が行われました。

介護助手の業務は主に以下になります。

  • 排泄
  • 食事支援
  • リネン交換
  • 入浴サポート
  • 洗濯物の配布

​介護助手による夜勤業務のサポートで、職員の業務負担が軽減され、利用者を待たせることなく介護サービスを提供できるようになりました。

取り組みによる効果について、施設が実施した「 5 段階評価のアンケート結果」を以下に示します。

Before After
①夜勤者の朝食前後の業務が忙しい(朝 6 時頃ポータブルトイレの交換、 朝食後 のトイレ介助)  ① 介護助手等が夜勤者の業務の一部を担うことで利用者を待たせることなく居室誘導、トイレ介 助ができるようになった 
② 「介護負担が高いと感じるか」 4.24 ② 「介護負担が高いと感じるか」 3.58
③ 「ケアの質が高いと感じるか」 3.38 ③ 「ケアの質が高いと感じるか」 4.21

これらの取り組みにより、介護業務の効率向上と職員の負担軽減が実現し、介護サービスの質の向上が実感されています。

参考:介護現場における「多様な働き方」取組事例集 厚生労働省 

アクティブシニアによる介護助手

「アクティブシニアによる介護助手」の取り組みは、社会福祉法人奉優会にて東京都市部を中心に展開されています。

​社会福祉法人奉優会では、70代から80代以上のアクティブシニアが多いという背景がありました。アクティブシニアは、正職員や時給制のパート職員など様々でした。法人は「人は財産」という価値観を大切にし、働く希望のあるシニア職員に柔軟に働く環境を提供しています。

80代以上のアクティブシニア職員9名中、2名が「笹端デイサービスセンター」の介護助手となっています。

法人は高齢の職員に合わせて勤務日数や時間などの条件を調整し、定年前からの長期雇用を支援。また、リーダーはコミュニケーションを密にとりながら、80代以上のシニア職員の体調や体力の不安に対して配慮するなどしています。

このほか、現場でのOJTを活用し、業務の明確な分担や報告連絡相談を大切にしています。

介護助手の採用は地域からの知り合いや紹介によって応募してくることが一般的で、地域に深く根ざした雇用機会の提供にもつながっています。この取り組みにより、アクティブシニアが介護助手として活躍し、高齢者の働く希望を叶える環境が整備されました。

この取り組みによる効果は主に以下の3つです。

  • 他年代との交流が促進される。
  • アクティブシニアが、職員や利用者の輪をとりもっている。
  • 利用者によっては同年代ということで話があい、仲間のような感覚が生まれている。

参考:介護現場における「多様な働き方」取組事例集 厚生労働省

介護人材不足の時代に困らないために早めの対策を

人材不足は組織にとって大きな課題であり、今後も避けられないテーマになるでしょう。しかし、早めの対策と柔軟なアプローチで乗り越えることができます。

対応が後手に回ると、現場スタッフに負担がかかり離職につながるため、注意する必要があるでしょう。

正社員としての採用が難しい場合でも、ワークシェアリングやアクティブシニアの活用によって人材を確保し、柔軟な対応を考慮することで人材不足の時代における組織運営が行いやすくなるはずです。

今回の記事で紹介した方法を活用し、持続可能な経営をするための施策を打つとよいでしょう。

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この記事の著者

Rehab Cloud編集部   

記事内容については、理学療法士や作業療法士といった専門職や、デイサービスでの勤務経験がある管理職や機能訓練指導員など専門的な知識のあるメンバーが最終確認をして公開しております。

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