介護業界におけるコンプライアンスとは|違反事例・チェック方法・遵守のための取り組みとは

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更新日:2024/08/02

高齢化社会の進展に伴い、介護施設やサービスの需要が増加しています。しかし、その中で遵守すべき法律や規制が数多く存在し、それらを遵守することが求められています。また、倫理的な観点からも、利用者の人権やプライバシーの尊重、適切なサービス提供が求められるのが介護業界のコンプライアンスです。この記事では、介護業界におけるコンプライアンス遵守の重要性について解説しています。  

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コンプライアンスとは

コンプライアンスとは、「国が定めた法律や条例を遵守すること」を意味する言葉です。 国が作ったルールや社内規則を守らなかった場合、コンプライアンス違反となります。

介護業界においても、このコンプライアンスを前提とした経営が欠かせません。コンプライアンス経営は、事業者としての信頼関係を作るだけでなく、利用者の安全を守るものでもあります。

そのため、高齢者や障害者の生活を支える重要な役割を果たしています。

介護業界でのコンプライアンスの重要性と考え方

介護業界におけるコンプライアンスの考え方では、法令の遵守と倫理観に従った行動の両方の要素を取り入れることが重要です。

介護業界では個人情報の取り扱いや医療行為など、守るべきルールが多く存在します。これは施設だけでなく、利用者やその家族など介護に関わるもの全体の安全・信頼につなげるためだからです。

さらに倫理的な観点を持ち、利用者に対して適切かつ誠実な行動をとることが大切です。

このように、コンプライアンスと倫理的な行動によって、介護業界全体の信頼性の向上が期待できます。

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介護業界におけるコンプライアンス遵守の具体的な内容

介護業界におけるコンプライアンスとは、関連する法律やルールなどにもとづいて業務を行うことです。

介護業界で守るべき法令として、以下があげられます。

  • 介護保険法
  • 労働基準法(労働法規)
  • 高齢者虐待防止法
  • 権利擁護
  • 個人情報保護

そのなかでも代表的な法律は、「介護保険法」「個人情報保護法」「労働法規」です。ここでは、3つの法律にもとづくコンプライアンスに関して詳しく解説します。

介護保険法に基づくコンプライアンス

介護保険法とは、高齢者や障害者の介護を必要とする方に対して、その必要度合いに適したサービスを提供するための制度です。

介護保険法では、サービスの提供にあたって以下の遵守が求められます。

  • 利用者の人権やプライバシーの尊重
  • 利用者に適した医療行為の実施
  • 提供する介護サービスの質の向上
  • 経営状況の透明化
  • 適正な事業所の経営
  • 財務管理

このように、利用者側の配慮だけでなく、事業所の運営に関わる内容の徹底も重要です。

参考:厚生労働省|介護保険制度の概要(2023年9月3日確認)

個人情報保護法に基づくコンプライアンス

個人情報保護法とは、個人のプライバシーに配慮し、一人ひとりの権利や利益を守ることを目的に制定された法律です。

介護業界では、利用者やその家族などの個人情報を必ず取り扱うため、個人情報保護に対する高い意識が求められます。

介護事業者は、利用者の同意を得たうえで個人情報を収集し、目的から外れた利用や第三者への提供を避ける必要があります。

また、個人情報は紙面上だけでなくWeb上で取り扱うことも多いので、外部への漏洩やデータの消失を防ぐためのセキュリティ対策も重要です。

このように、個人情報保護法にもとづくコンプライアンスの徹底によって、利用者のプライバシーが守られ、信頼関係の構築につなげられます。

参考:「個人情報保護法」をわかりやすく解説 個人情報の取扱いルールとは?(2023年9月3日確認)

労働法規に基づくコンプライアンス

労働法規とは、労働者の権利や労働環境を保護することを目的とした法律です。「労働基準法」や「労働組合法」などが労働法規に含まれています。

介護業界におけるコンプライアンスは利用者やその家族に関する部分が注目されがちですが、労働者にも配慮する必要があります。

介護業界では24時間体制でサービスを提供するケースが多いため、以下のような管理が求められています。

  • 適切な労働時間
  • 残業代の支払い
  • 休日の取得

また、「雇用保険法」や「労働者災害補償保険法」、「雇用保険・災害保険」なども例外ではありません。介護業界においても、労働者の保護を目的とした法律はすべて遵守する必要があります。

参考:厚生労働省|労働関連法規・ 社会保障制度の理解(2023年9月3日確認)

介護業界におけるコンプライアンス違反事例

ここでは介護業界におけるコンプライアンス違反の事例についてご紹介します。

利用者や家族に対して発生した違反

こちらでは、利用者や家族に対して発生したコンプライアンス違反の事例をご紹介します。

事例1:介護施設での虐待や不適切な医療行為

介護施設に入居している、認知症の女性利用者のAさんがいた。Aさんは認知症の影響で、物忘れや徘徊をすることがあった。

そのような行動に腹を立てた介護職員が、Aさんに対して暴力や暴言などの行為をした。

この場合、該当介護職員の公表処分や介護事業所の指定、認可の取り消しなどの罰則が科される可能性があります。

事例2:介護報酬の不正請求

介護施設の事務をしている職員がいた。その職員は、他の介護職員から「Aさん(利用者)の暴力行為がエスカレートしており、悩んでいる」という話を聞いた。

介護職員に対するAさんの行為に腹を立てたため、事務職員はその利用者の介護報酬を不正に上乗せして請求をした。

介護報酬額が異なることに気づいた上司が、その事務職員に話を聞き、「Aさんの暴力行為に腹が立ったからやってしまった」と答えた。

この場合、介護事業所の指定、認可の取り消し、違反内容の公表などの罰則が科される可能性があります。

施設・従業員で発生した違反

こちらでは、施設・従業員に関係するコンプライアンス違反をご紹介します。

事例1:長時間労働の強要

介護施設で働いている介護職員のAさんは、仕事のタスク量が多いため毎日残業をしていた。そのような日々を過ごした結果、1週間で40時間を超える労働時間となっていた。

Aさんは残業が続いている状況を上司に伝えたが、「もっと効率化しろ。長時間働いているのは自分の能力が低いからだ」と相手にしてくれなかった。その後も仕事量は変わらず、残業が続いた。

この場合、労働基準監督署による行政指導や刑事処分などが科される可能性があります。

事例2:強制的なサービス残業

介護施設で働いている介護職員のAさんは、人手不足で忙しいため、毎日残業をしていた。ある日、上司が勤怠管理をしていたらAさんの残業時間が多いことに気づいた。

上司はAさんに「残業時間が多いと施設長に指摘される。実際よりも短い残業時間を申告しろ」と伝えた。

この場合も同様に、労働基準監督署による行政指導や刑事処分などが科される可能性があります。

このように、介護業界においてもさまざまなコンプライアンス違反が発生する可能性があります。

コンプライアンス違反を防止するには、倫理的な観点を持ちつつ、利用者や家族に対して誠実に接して信頼関係を構築することが大切です。

また、従業員にも公平で偏見のない対応を心がけ、組織内の規則や手順を遵守しましょう。

理想的な組織体制とコンプライアンス・マニュアル

コンプライアンスを徹底するには、組織内でルールや規定を明確にしておくことが重要です。そのためには、「コンプライアンス・マニュアル」を設ける必要があります。

コンプライアンス・マニュアルとは、法令遵守や倫理的な行動について、従業員に具体的に示すためのガイドラインです。

おもな目的と役割は、以下の通りです。

  • 組織のルールや規定の一元化・明確化
  • 組織内での意識の統一
  • 従業員の教育・研修のためのツール

ここでは、それぞれの目的と役割について詳しく解説します。

組織内のルールや規定を一元化し、明確にする

コンプライアンス・マニュアルでは、組織内のルールや規定を一元化し、内容を明確化します。

コンプライアンスの徹底を浸透させるには、許容される行動と禁止される行動の線引きを明確にすることが重要です。

そのようなルールや規定を1つのマニュアルにまとめることで、従業員が適切な行動をとれるような指針ができます。

組織内で意識を統一する

組織全体で同じルールや規定を遵守する基準を作り、従業員の意識を統一することも、コンプライアンス・マニュアルの目的・役割の1つです。

複数の施設や事業所を経営していると、それぞれの独自のルールや規定が自然と生まれることがあります。

そのような状況でも、法令遵守や倫理面においては統一すべき基準を設けることが重要です。

従業員の教育や研修のためのツール

コンプライアンス・マニュアルは、従業員の教育や研修のツールとして用いられることもあります。

従業員ごとの知識や意識だけに頼るのではなく、具体的なケーススタディを行い、全員が適切な倫理観や判断を持てるようにサポートしましょう。

コンプライアンスの再確認をするために、研修や勉強会は定期的に開催することが重要です。

以上のように、コンプライアンス・マニュアルは組織内でのルールや規定を明確にし、統一性を確保するためのものです。また、従業員の教育や研修にも活用され、コンプライアンスを徹底するための重要なツールとなります。

定期的なチェックで役立つ「自己点検シート」

厚生労働省が提供している「自己点検シート」は、現場レベルで業務が徹底されているかをチェックするのに役立つシートです。

介護保険法に基づく運営ができているかを確認できるので、ぜひ活用してみてください。

具体的には、以下のような項目を1年に1回程度の頻度でチェックします。

◻️必要な人員配置をしているか
◻️サービス提供で求められる資格をスタッフが保有しているか
◻️施設の面積や設備要件はルール通りか
◻️正しい額の請求をしているか
◻️利用者や家族、職員の個人情報を保護しているか
◻️事故報告をしているか
◻️必要な書類は作成・保管しているか
◻️書類の内容に不備はないか
◻️利用者のアセスメント・モニタリングをしているか
◻️居宅サービス計画に沿った内容を提供しているか
◻️災害や感染症などの非常時の対策はされているか
◻️虐待行為をしていないか

参考:介護保険施設等運営指導マニュアルについて(2023年9月3日確認)

コンプライアンスを遵守して適切なサービス提供を

介護業界におけるコンプライアンスは、利用者の安全性と信頼性を担保するための重要な要素です。それ以外にも、職員が安全に働けるような環境を作る役割も担っています。

コンプライアンスに反する運営は、さまざまな罰則が科されるだけでなく、関係者達の信頼性を損ねる原因となります。

コンプライアンスを遵守するには、組織内のルールの浸透、適切な倫理観を持つための教育・研修などの持続的な取り組みが必要です。

介護業界に関わらず、コンプライアンスの遵守は運営の基盤となるものなので、定期的な対策を忘れないようにしましょう。

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この記事の著者

Rehab Cloud編集部   

記事内容については、理学療法士や作業療法士といった専門職や、デイサービスでの勤務経験がある管理職や機能訓練指導員など専門的な知識のあるメンバーが最終確認をして公開しております。

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