介護における多職種連携の必要性を3つの事例から読み解く

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更新日:2024/06/25

介護スタッフにとっても利用者様にとっても、介護の入り口となるのは全国に4万件以上あるデイサービスなのではないでしょうか?日々、様々な職種のスタッフが従事していますが、質の高い介護サービスを提供するには、事業所内のスタッフやケアマネジャー、そしてご家族との連携によって決まると言っても差し支えないでしょう。今回は、多職種連携の重要性をテーマにデイサービスでの勤務経験もある一般社団法人エイジレスライフ協会理事の新開千世さんに実体験を交えたコラムを寄稿してもらいました。  

【今回の話者】
一般社団法人エイジレスライフ協会理事・看護師 :新開千世
介護福祉士取得後、働きながら看護師を取得。病院、施設にて勤務。デイサービスで管理職を経て、看護師・サービス管理責任者として従事。

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介護における多職種連携とは

デイサービスは、介護スタッフ、機能訓練指導員、看護師、生活相談員、管理者と多職種で成り立っています。

しかし、働くスタッフは年齢も育った環境も、専門職として学び得てきた知識も様々です。

そのため、介護スタッフとして「良い」と判断したことが、医療者から見たら正しくないことも往々にしてあります。

デイサービスでは、介護保険法に基づきケアマネジャーが作った居宅サービス計画書をベースに、管理者が通所介護計画書を立案します。デイサービス内でその計画を遂行し、評価しケアマネジャーに報告するという流れになります。つまり、デイサービスではケアマネジャーなど外部との連携も必要なのです。

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多職種連携が求められる理由

まずは多職種連携が求められる3つの理由について説明します。

一つ目は介護職、機能訓練指導員、看護師の連携により、利用者様とご家族が安心してデイサービスに通所できるようにするためです。

二つ目は介護職、看護師、ケアマネジャーの連携により、病気を早期に発見してADLの低下を防ぐようにするため。

三つ目は訪問ヘルパー、ケアマネジャーの連携により、デイサービスの利用の機会を確保し、在宅生活を守るためです。

利用者が抱えていた不安を安心に変える

まずは多職種連携により、利用者様が安心してデイサービスに通うことができたケースをご紹介します。

脊髄小脳変性症のAさん。

症状としては歩行時の震えや、手の震え、呂律が回らなく言葉が滑らかに出ないことや、食事がうまく飲み込めない嚥下障害が起き、誤嚥性肺炎を発症しやすくなります。

2005年にテレビ放送されたドラマ「1リットルの涙」で、主演の沢尻エリカさんが脊髄小脳変性症の役をしていたので、ご存知の方はイメージがしやすいかもしれません。

60代のAさんは発症の前年まで企業の役職者として精力的に仕事をしていました。そんな中での発症。Aさんは気丈にふるまいますが、妻や娘は不安でいっぱいだったそうです。

発症の翌年には、ひとりで歩くこともままならず、歩行器を使用していました。発語も呂律障害が顕著に出ており、聞き取りにくく、ご自身の唾でむせ込んでいる姿も見られました。「たった1年でこんなに別人になるなんて」。担当者会議ではAさんの妻がよく言っておられました。

そのようなご家族の様子を見ていたAさんは自己流のトレーニングをしていたそうです。そのため、転倒して頭の外傷ができ縫合したり、玄関先の階段から落ちたりしていました。

また、病気のことだけではなく、前年まで働いていたため高額な税金の支払いもあり、ご家族は疲弊していました。

妻は、正社員として働くことを余儀なくされたため、娘と妻が交互に介護をし、日中はデイサービスを利用することになりました。

デイサービスでは、嚥下障害と転倒のふたつをフォローしました。

①嚥下機能へのアプローチ

嚥下機能訓練では看護師が評価し、訓練を行います。

看護師による訓練のほかに、送迎時には介護スタッフが車内で「ぱぱぱぱ」「たたたた」「かかかか」「らららら」と発語の訓練を他の利用者様と笑いを交えながら取り組みます。デイサービスに到着するころには普段よりも声が出ており、Aさんが気兼ねなく通所できるように工夫をしていました。

また、介護スタッフは食事の際に本人にわからないように遠目から見守り、プライドを傷付けないような配慮をしていました。

②転倒防止のためのアプローチ

小脳は体のバランスを司る部位なので、ふらついてしまい、安定した歩行ができなくなるため、理学療法士や柔道整復師などの機能訓練指導員が、歩行訓練や体幹訓練を行います。

歩行介助の際は、機能訓練指導員と介護スタッフが連携しています。Aさんが歩行器を使用して歩行をしているときに転倒しないように注意が必要でした。介護スタッフは機能訓練指導員から介助者の足に引っかからないような方法の共有を受けます。具体的には、Aさんの背後に寄り添って膝崩れや歩行器ごと転倒しないように、腸骨を支え、Aさんの脚と同じ脚を出すというやり方。結果として、介護スタッフは自信を持って、歩行介助をすることができました。

週に2回のご利用でしたが、ご自宅での転倒による傷を発見したときは、介護スタッフから看護職員に逐一報告もありました。

また、自宅で取り組めるトレーニング内容や注意点を書いた資料を介護スタッフがつくってくれたため、ご家族も安心し、本人も前向きにデイサービスに通うことができたようです。

病気に対する理解、症状へのフォロー、Aさんが在宅生活する視点を持ち、本人・ご家族をサポートする。これらはそれぞれの専門職がチームでアプローチをしたことで、信頼され、安心してデイサービスに通うことにつながったと感じました。

家族が把握できなかった病気を早期発見

デイサービス内では、介護スタッフが看護師に利用者様の体調の変化などを報告し、看護師と管理者が事業所外のケアマネジャーに報告することで、病院受診につながります。続いて、病気の早期発見やADLの低下を防ぐことができたケースをご紹介します。

認知症のBさん。

認知症による周辺症状がないため、とても穏やかな方でした。

Bさんが通所した直後、ふくらはぎなどの筋肉が痛むことで歩行を続けるのが難しくなる間欠性跛行があることが課題として共有されていました。

入浴担当の介護スタッフから、「あし(足)」が白いと報告があり、入浴後に私が観察すると重度の足白癬(水虫)だとわかりました。

ここでの「足」とは、足首から下のことで、股関節から下は「脚」です。普段から、言葉の認識を擦り合わせることは、報連相によるミスを予防するため多職種連携では重要なことの一つだと感じています。

水虫が原因で歩行レベルが落ちている可能性を考慮し、Bさんの担当ケアマネジャーに報告し、受診してるか確認すると、わからないとのことだったのでご家族に確認してもらいました。

Bさんは、共働きの息子夫婦との同居でしたが、認知症の周辺症状による困った出来事もほとんどなく、会話がないため足の状態の把握はできていなかったそうです。

その後、ご家族と共に受診し、水虫は治癒し、歩行能力も向上されました。

一番身近にいる介護スタッフから、医療者である看護師への報告。そして、デイサービスから、ケアマネジャーやご家族への報告で、病気の悪化を防ぎ、ADLが改善した事例です。

送迎時間はヘルパーへの配慮を忘れずに

デイサービス外の訪問ヘルパー、ケアマネジャーとの連携により、地域で利用者様の在宅生活を支援するというチームアプローチを学ぶことができたケースをご紹介します。

認知症で独居のCさん。ヘルパーが入っているため、お迎えは8時20分と設定していました。

いつも朝食を食べ終わらず、口の中にまだ入っており、薬は手に持った状態で送迎車に乗っておられます。

新人送迎スタッフのDさんは、「8時20分までに迎えに行けば良い」と思っていたため、少し早めの8時10分に迎えに行きました。

その日、ケアマネジャーからお怒りの電話がかかってきました。

「8時20分という約束なのに、今日は8時10分に迎えに来たそうですけどどうなってるんですか?送迎スタッフにちゃんと伝えてるんですか?」

どうやら、他のスタッフも8時20分前にお迎えに行くことがあったそうです。

ただでさえ、朝食を食べきらなかったり、認知症のため指示が入りにくくヘルパーの負担があったりする中で、予定より早く迎えに来るデイサービスへの不満が何回か、ヘルパーステーションからケアマネジャーに寄せられていたそうです。

スタッフに確認すると、「5分くらい早く行っても良いだろう」との認識があり、ヘルパーサイドの働き方や負担は考えられていないことが判明。

そこで、ヘルパーの役割や、デイサービスだけではなく、色々なサービスと連携して、その人の在宅生活を支えているという研修を行いました。

それ以降は他の事業所やケアマネジャーからのご指摘は減り、デイサービス内外でのチームアプローチという視点が、スタッフに広がりました。

デイサービスへ行く準備が難しい一人暮らしの方や認知症の方、ご家族の援助が難しい方は、準備と送り出しのため訪問ヘルパーが、デイサービスの迎えに行く時間に入っています。

ヘルパーも分単位の支援のため、交通事情でデイサービススタッフとやりとりできない日もあります。

ヘルパーは、家の中から玄関までの支援。デイサービスは玄関からの支援という決まりがあり、それをお互い理解していないと不満が生じかねません。

「デイサービスのお迎えがヘルパーがいる時間に間に合わない時は、玄関の椅子に座らせておく」や、「薬はカバンのここにいれる」などのルールを決めないと、転倒や薬の飲み忘れなどが起きてしまいます。

他にも以下なども、ヘルパー事業所やデイサービスだけではなく、ケアマネジャーと協議すべき内容です。

  • 2人体制でないと車の乗車ができない方の対応は、ヘルパーとデイサービススタッフで介助する。
  • マンションのどこで待つのか・自宅まで迎えに行くのか、マンションの下で待っているのか決めておく。(ドアtoドアが基本です)
  • 送迎時間が変わる時の連絡先を決めておく。

また、自治体によって玄関から送迎車までの役割を厳密に決めているところと決めていないところがあり、市境の近辺でデイサービスを運営している事業所は、それぞれのローカルルールを把握していないと、うまく連携ができないこともありえます。

※ヘルパーとの連携については東京海上日動ベターライフサービス㈱みずたま介護ステーション柏 
のサービス提供責任者 黒木裕子さんより、情報提供して頂きました。

自立支援のための一歩は多職種連携にあり

デイサービスにおける多職種連携には、デイサービス内(介護スタッフ、機能訓練指導員、看護師、生活相談員、管理者)と、デイサービス外(ヘルパーやケアマネジャー、ご家族)があります。

介護保険法の制度やルール、介護サービス事業所のそれぞれの役割を知り、守ること。

それぞれの専門性を最大限に発揮し、利用者様の願いが実現すること。

自分勝手にではなく個人や各事業所が、利用者様の思いや視点に立ち、垣根を越えた支援をできるかをそれぞれ発信していき、手を取り合って地域の課題や生活課題を解決していくこと。

利用者様の生活を守り、思いの実現や自立支援を促すためには、事業所内外の連携が必要だと考えます。

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この記事の著者

一般社団法人エイジレスライフ協会理事  新開 千世

介護福祉士取得後、働きながら看護師を取得。病院、施設にて勤務。デイサービスで管理職を経て、現在は障がい者グループホームも手懸けている一般社団法人エイジレスライフ協会にて理事就任。現場では看護師・サービス管理責任者として従事。実務者研修講師(介護過程Ⅲ、医療的ケア)としても活動中。地域包括ケアシステムに関わる人々を繋ぐハブとなれるよう、東葛医介塾を開設。塾長を務める。

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