介護現場におけるクレーム・苦情事例と7つの接遇対応テクニック 

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更新日:2024/09/18

介護施設に寄せられるクレーム・苦情の対応に困っている方も多いのではないでしょうか。この記事では、デイサービスをはじめとした介護施設での対応事例を紹介し、研修やマニュアルに使えそうな内容を掲載しました。 また、クレーム・苦情の種類に合わせた聴き方やテクニック・円滑なクレーム処理方法を「7つのテクニック」として解説しています。  

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クレームと苦情の違いとは何か

クレームと苦情の違いとは

介護や医療の分野では、「クレーム」「苦情」という言葉について正式な定義はありません。この記事では、介護・医療分野におけるクレームや苦情という言葉の違いを定義立てて、対応方法を解説しています。

クレームとは

クレームとは、期待した水準のサービスが得られなかった時に、金銭や機能、サービス品質など実質的な補償を求めることです。クレームのきっかけとなった事案はいろいろですが、要求は、例えば「事前に説明されたサービス内容と違うから返金してほしい」や「もっと高品質のサービスを提供してほしい」などの実質的な補償や賠償の要求につながるものです。

苦情とは

苦情とは、サービスを受けることにより満たされると期待していた、大切にしてもらっていると感じる愛情や、気持ちや考えを尊重してもらえると期待してた尊厳欲求など、心理的な欲求が満たされなかった時に発生するものです。

苦情のきっかけの事案はいろいろありますが、要求は「丁寧にしてほしい」「わかりやすくしてほしい」「もっと優しくしてほしい」「気持ち良い態度にしてほしい」「早くしてほしい」など、気持ちの問題を埋め合わせしてほしい、もう不快な思いをしないように改善してほしいという要求につながる建設的なものが多いです。

クレームや苦情は、得られていない欲求を満たすために起こしている行動であるという側面を考えて対応することが大切です。

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介護施設でのクレーム・苦情の種類

介護施設でのクレーム・苦情の種類

クレームには色々な種類がありますが、苦情や要望を言う人の欲求や要求から内容を整理すると、以下のような4つに分類できます。

  1. 機能や品質が足りない
  2. 費用が高すぎる
  3. 大切に優先的に扱ってほしい
  4. 損害を受けたから賠償してほしい

また、クレームや苦情のきっかけとなる事案には以下のような4種類があります。

  1. お相手が理解できていなかった、説明が不足していた
  2. 相手が誤解していた
  3. 意図的にトラブルに発展させた
  4. 事故や不可抗力

介護や医療などの仕事では、患者や利用者に対して治療、介護、看護、対応などのサービスを提供します。それぞれ一生懸命に相手に向き合っても、相手から見たら不十分・不満足という点があるかもしれません。

クレームや苦情をお聞きするのは辛いことですが、業務や対応改善のきっかけを提供してくれているかもしれない、原因は自分たちにあるかもしれないということを考えながら、仕事としてうかがうことが重要です。

仮に苦情の対象が自分には無関係な同僚の対応のことなどだとしても、自分が組織の代表で対応しているという気持ちで同僚を思いやることも大切です。そのような対応が、お相手の気持ちを鎮めるかもしれませんし、丁寧に対応することでおおごとにならずに済むかもしれません。

良いクレーム対応は、施設や病院のイメージを逆にアップさせる要因にもなりえるのです。

デイサービスなどの通所施設での苦情・クレーム事例

  • 職員の介護方法、対応方法、言葉遣い、態度などに関する要望
  • 送迎時間や送迎時の介助方法について希望通りにならないことによる苦情
  • 連絡帳の内容や、利用者本人が家族に話したことから生じる誤解が招いたトラブル
  • 食事中や排泄時に衣類が汚れてしまったが、その点について家族に伝達せず、後から気がついてしまったときの苦言
  • 家族や利用者が軽い要望として話したことに対して、反抗的な態度や言い訳のような表現をして立腹させてしまったことに対するクレーム
  • 利用者の自宅や病気などの個人情報を他の利用者に詳しく知られてしまった
  • 利用者や家族からの要望に対して、無責任に解凍してしまい、その結果要望の内容が果たせなかったり、忘れてしまっていたりした時

敬語の適切な使い方などについて知りたい方は、以下の記事をご一読ください。
▶︎「介護職の言葉遣い」敬語の使い方やチェックリスト

介護老人保健施設などの介護施設の苦情・クレーム事例

  • 退所の時期や対処に向けた段取りについて苦情
  • 介護中の出来事や生活に必要な物品や費用についての認識の違いから発生した苦情
  • 余命や病気の詳細について本人に知らせないという約束だったが話してしまったことについての苦情
  • 介護方法や対応方法を取り決めたが、スタッフに十分に共有されていなかったことによる苦情
  • 施設の医師や看護師が医療的な面や治療などでどこまで対応できるかの認識の違いによる不満
  • 包帯などの治療補助具の費用に関する苦情
  • 家族に連絡を入れる頻度についての苦情
  • 軽度の事故や介護上の難しさなどについて相談や報告が不足していたことについての苦情
  • 介護保険制度について理解ができないという不満
  • 入所の日程についての苦情
  • 施設入所中に感染症にかかってしまった時や施設内での避けられない転倒事故や自傷事故などに関わるトラブル
  • 職員の声掛けや、利用者の物品、衣類などに関する要望

訪問介護などの訪問サービスでの苦情・クレーム事例

  • 訪問した時に、家庭内の物品を壊されてしまった
  • 二人きりになった時に、不快な話をされた、不快な行為をされた
  • 約束した時間に来ない、予定されている時間より短い
  • 訪問してもらったときに頼みごとをしたが聞いてもらえなかった

介護施設、病院での苦情・クレーム対応研修では、接遇面を含めて相手に不快感を与えないためのチェックポイントや、実際に苦情を伝える役、苦情を受け付ける役に分かれてシミュレーションを行うなどの研修があります。

苦情やクレームを訴えている方は、興奮していることが多いので、クレーム苦情対応時には言葉遣いや態度、身だしなみなどの接遇マナー面には細心の注意が必要です

もし施設利用者のわがままに悩んでいるというのであれば、以下の記事をご一読ください。
▶︎介護利用者のわがままにどう対応する?適切な対応方法を具体的に解説

クレーム時の7つの接遇対応テクニック

クレーム対応の7つのテクニック

クレーム対応の具体的な技術・テクニックについては、7つのポイントを抑えて進める方法をお伝えします。

接遇の重要さや身につけるためのポイントについて知りたい方は、以下の記事をご一読ください。
▶︎介護の接遇マナーとは?5原則と正しい言葉遣いや身だしなみ【研修資料】

クレーム・苦情で訴えたい欲求や興奮度合いを把握

クレームや苦情は、この記事で紹介してきたような欲求が相手にあり、期待に満たなかったその欲求を叶えるために行動に出ている状態です。

相手の訴えはいろいろあると思いますが、繰り返し話していることや回りくどく言っていることの奥にある欲求を把握して、どうしたら満足してもらえるかを考えていきます。

なお、この最初の聞き取りではできるだけ初期対応者が対応し、すぐに責任者が出て行かないこともテクニック的には大切です。

解決する場合もなくはないですが、すぐに最終責任者が対応してしまうと、対応がうまくいかなかった場合にどのように落とし所を見つけていくかの選択肢が狭まるためです。

最初に話を伺うのが遅くなったことに対しお詫びを

クレームや苦情では、相手からのお詫びの言葉を求めることが多いですが、クレームや苦情になった事案そのものについては即座に謝罪やお詫びをするべきではありません
しかし、お詫びの言葉をクッション言葉として次につなげることはできます。

例を挙げるとすれば、「すぐに不満の気持ちに気付けずに、お話をお聞きするのが遅くなって申し訳ありませんでした」というお詫び言葉を添えることが有効です。相手は不満や不安が溜まってしまい、とうとうアクションに移してしまったという状態がほとんどです。

その前にお気持ちの変化に気づくことができなくて申し訳ないとお詫びすることは、接遇的な観点からも良い対応です。

とにかく傾聴して最後まで聞く

介護や医療の仕事の基本的な姿勢として傾聴が重要視されているとおり、クレーム対応や苦情の聞き取りでも最後まで話をよく聞くことが最も大切な姿勢です。

途中で話を遮らずに相手が「話し切った、言いたいことはすべて伝えた」と思える程度にしっかりと聞き取りを行いましょう。

苦情・クレームを伝えてくる人は、とにかく「伝えたい」「全部知ってほしい」と思っているものです。事実を把握し正しくジャッジするという面からも、傾聴に徹して相手の言い分をすべて受け取ることはとても大切なテクニックといえるでしょう。

相槌は適度に入れ、話に割り込むことはしない

接遇や基本的なマナーとして、相手が話しているときに割り込まないのは多くの人が意識しているでしょう。しかし、自分にとって理不尽な訴えを一方的にされていたり、相手が完全に誤解していたり、侮辱的な発言をされたりすると割り込んで否定したくなると思います。

相手が興奮してクレームや苦情を言っているときには、特に汚い言葉や関係のない話しなどまでいろいろ話してくることもあります。しかし、クレーム対応テクニックとしては、とにかく話に割り込まないことが重要です。

相手が興奮して誤解したまま訴えたり、侮辱的な発言などまで含んでいるときは落ち着いて全て聞き、特にその日は答えなどは出さず、持ち帰りましょう。

クレーマーと言われるような人は、ボイスレコーダーで録音し、言い返したり、喧嘩口調になったりした部分だけを切り取って違った訴えに発展させたり、悪い評判などを広める材料に使ったりするケースもあります。

辛いですがグッとこらえて、相手の訴えや要求の内容と合わせて不適切な発言などもこっそりメモしておき、傾聴している姿勢でいましょう。

介護現場で必要なコミュニケーションの形や技術などについて知りたい方は、以下の記事をご一読ください。
▶︎介護のコミュニケーションの重要性|話題作り・大切な技法とコツとは

共感しつつ、できる限り要望に応える姿勢を

相手の話について一通り傾聴し、相手の興奮や感情が静まったところで、話の内容を整理していきます。それに合わせ、自分に答えられる範囲で自分たちの立場、自分たちの事情などを説明し、合理的に相手の同意や納得感を確かめていきましょう。

介護や医療の分野では、関係性が崩れてしまっている場合や、悪質な場合を除けば、施設側の立場や事情について伝えることで難しさなどに理解を示そうとしてくださる方もいます。

同情を誘うわけではなく、今の状態について説明した上で、相手の要望にもできるだけ答えていくという姿勢を示すことで、クレームや苦情の落とし所を考えやすくなり、まとめやすくなるでしょう。

要望(クレーム・苦情)を話してくださったことへのお詫びの言葉を

クレームや苦情は業務改善やサービス品質向上のきっかけにもなるというお話をしましたが、ほとんどの場合苦情やクレームを言ってくる方は、要望を伝えれば施設や病院は応えてくれると考え、アドバイスや指導という意味合いも込めている場合が多いです。

得るものが少しでもあったら「業務改善やサービス品質向上の気付きのきっかけを与えてくださりありがとうございます」というニュアンスのことを伝えます。

また、一方的で到底寄り添えない要望の場合には、「お気持ちの変化に気付けず、お話をお聞きするまでお時間をいただいき申し訳ありませんでした」というお詫びの言葉を再度伝え、精一杯の誠意を示しましょう。

担当者や責任者に内容を伝え、対応ランクごとに引き継く

施設や病院ではクレーム報告書や苦情対応票などの記録様式を定め、担当者や責任者に提出共有する方式をとっていることが多いです。ひととおり聞き取りが終わった後は、それに則った対応を進めていきましょう。

介護や医療のクレーム・苦情には、実質的な保証を求めるクレームと、心理的な埋め合わせを求める苦情があります。聞き取ったクレーム・苦情がどちらにあたるのかをしっかり見極めるのも大切です。

訴えの言葉や内容、自分の対応などを的確に伝えて引き継ぎ、共有していきましょう。

介護施設の苦情相談窓口の設置義務

介護保険サービスの事業所には、運営基準上「利用者及びその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応するために、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じなければならない。」という法律上の苦情窓口の設定義務があります。

この苦情相談窓口は、事業所の中で苦情対応責任者を選任することや、区市町村の窓口、国保連合会や保険組合などの保険者に関わる窓口などを、重要事項説明書などで利用者や家族に説明する必要があります。

日頃からクレーム・苦情を全体共有しておくことが大切

もっとも大切なことは普段から行うべき接遇マナーの内容です。また、苦情やクレームの内容を的確に伝達していくために、施設や病院ごとに定めている苦情対応フローや、クレーム対応記録、お客様や利用者からの声を取り入れた例などを、誰もがわかるように共有することが大切です。

介護の接遇マナーについてもっと詳しく学びたい方は以下の記事などもあるので、ぜひご一読ください。

▶︎社会人としての 敬語の使い方 や 言葉遣いの問題 介護の接遇マナー

▶︎介護の接遇マナー向上 挨拶の仕方やお辞儀で好印象を与える方法

▶︎介護の接遇マナー向上 身だしなみ(外見)で第一印象をアップさせる方法

▶︎介護職員の接遇とは おもてなしの心を表現する4つのポイント【基礎知識】

▶︎ホスピタリティとは 接遇マナーとの違いから事例まで

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この記事の著者

作業療法士  大久保 亮

リハビリ養成校を卒業後、作業療法士として、通所介護事業所や訪問看護ステーションにて在宅リハビリテーションに従事。働きながら法政大学大学院政策学修士を取得。その後、要介護者、介護現場で働く人、地域住民まで、介護に関わるすべての人が安心していきいきと活躍し続けられる世界の実現を目指して2016年6月株式会社Rehab for JAPANを創業。また、日本介護協会関東支部局副支部長を務める。

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