介護における自立支援とは|自立の意味と定義・「自立支援介護」との違い

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更新日:2024/04/25

近年介護分野では「自立支援」が重要視されています。自立支援というキーワードは、政府の未来投資会議や介護報酬改定に向けた会合でも度々言及されている概念です。似た言葉に竹内孝仁教授(国際医療福祉大学大学院)が提唱する水分摂取、栄養、自然排便、運動」の重要性に着目した「自立支援介護」という言葉があります。これらの違いや自立とは何か、自立の歴史紹介します。  

近年介護分野では自立支援が重要視されています。自立支援とななにかを紹介します。自立支援というキーワードは、政府の未来投資会議や介護報酬改定に向けた会合でも度々言及されている概念であり、「要介護になった人を、少しでも自立した生活を継続的に営めるようにする」ことを目的とした介護手法で、社会保障費の削減や、健康寿命の延伸など、国家的なニーズを反映しているワードになっています。

自立とは

自立とは、経済的自立・身体的自立・精神的自立などがあります。特に介護分野では、支援を必要とする人の自己選択・自己決定を自立として重視する傾向があります。身体的・精神的な障害や弱みがあったとしても、なされるがままに生かされる訳ではなく、本人の気持ちを尊重して、自分が選んだ方法で支援されるべきという考えからです。

自立の概念の歴史

自立という概念が注目されたのは、1960年代にアメリカで始まった障害者の自立生活運動(IL運動)という社会運動からと言われます。

1960年代、重度の全身性障害を持つ学生がカリフォルニア大学バークレー校に入学しました。この学生はエド・ロバーツといい、後にバークレー自立生活センターを設立し、さらにカリフォルニア州リハビリテーション局長に就任した人です。

全介助のような状態のエド・ロバーツが入学した翌年、自立生活センターの共同設立者となるジョン・ヘスラーも同校に入学し、1967年には12人の重度身体障害者が同校で学生生活を送ることになりました。 そして、彼らはやがて、大学構内や地域社会で移動しやすい環境整備を求める障害学生の運動組織を結成し、大学構内でだれでも移動や情報収集が行えるよう求め、障害学生に対する管理的なリハビリテーション・システム等に対して問題提起をしました。

1969年、彼らは「自立生活のための戦略」という講座を開講して、さらに後の自立生活センターにおけるサービスのもととなった「身体障害学生プログラム」を企画・運営します。このような活動を通して、彼らは後に自立生活センターの原則となる3つの理念にたどり着き、公表しました。

自立生活センターの原則となる3つの理念

  1. 障害者のニーズとその満たし方を最もよく知るものは障害者自身である
  2. 障害者のニーズは、各種多様なサービスを提供する総合的プログラムによって、最も効果的に満たされる
  3. 障害者はできるだけ地域社会に統合されるべきである

このように、自立の象徴的な組織である自立生活センターでは、自立について考えるときには障害者の視点が大切だということを述べています。体や心の障害そのものが生活上の障害になるわけではなく、制約された生活から抜け出せないことが障害であり、これが自立していない状態なのです。

自立生活センターの原則の1にあるように、障害があっても、本人はその状態でどうしべきかやどうしたかの考えや気持ちがあり、本人の意思や同意を元に提供された支援以外には本当の自立のニーズを満たすものはないということです。

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介護分野の自立支援とは

介護の分野では自立支援が推進されていますが、自立支援とはなんでしょうか?

自立支援の意味ついて簡単にいうと「その人が自分の能力に応じた自立した生活ができるように支援すること」です。

自立した生活の解釈にはいろいろありますが、例えば日常的な「活動」にフォーカスして、億劫なのでトイレに行かずにオムツで排泄しているケースや、トイレに行くときに歩けるけれど車椅子をつかってしまうなどのケースを、できるだけ現実的な形で自分で行えるように支援してくことなどが例として挙げられます。もちろんこれらの自立支援は「行かないとダメです!」とご本人に押し付ける形でなく、ご本人が希望や納得をしていただいた上で実施することが自立支援の条件です。

また、自立支援というとどうしても福祉的なサービスの範囲での話に終始してしまい日常生活上のことばかりがピックアップされますが、旅行・墓参り・クラブ活動・地域の集会・新年会や忘年会など非日常的でも役割や娯楽的な参加事などまで含めて、障害の有無に関わらず、自分の能力や希望の目的に合わせて多種多様な手段で総合的な支援が行われることが含まれます。さらに広い観点で言えば自立支援には、障害があってもインフラや社会がその障害を障害と感じさせないようなユニバーサルデザインであることも先進的な考え方となっています。

自立支援介護とは

自立支援介護とは、竹内孝仁教授(国際医療福祉大学大学院)が提唱する「水分摂取、栄養、自然排便、運動」の重要性に着目し、ご本人の体調を整え、活動性を上げることで体力を回復し、意欲や活力を取り戻すことを基本精神とする自立を支える介護です。

自立支援介護の内容

自立支援介護は、具体的には以下のような点を意識したケアのことを指します。

  • 水分量:1日1500ml
  • 栄養摂取:1日1500kcal
  • 運動量:1日2kmの歩行
  • 便通:3日以内の自然排便

自立支援介護は、身体的・精神的・社会的自立を達成し改善・維持するよう、介護という方法によって支援していくことを言うと竹内教授は述べています。本人の自立のための基礎となる体調や運動器を良い状態に保つために「水分摂取、栄養、自然排便、運動」に着目して支援を行うことを説いています。

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自立支援介護の実践による効果や事例

自立支援介護は、特養などで特に積極的に取り入れており、脱水症が減少したり、下剤に依存的な排便習慣の改善、せん妄症状などが減り反応や発言が良い状態になったなどの効果や事例があります。

自立支援介護への批判や誤解

自立支援介護では、水分量・栄養摂取・運動量・便通などがとてもわかりやすく示されていてわかりやすいのですが、「水分を1500ml摂取すれば認知症が治る」など、ちょっと誇大な表現をした出版もあり、メディアなどでも誇大な報道をされてしまいました。その番組や本を見た人や専門家界隈などから、「水分を毎日1500mlとっても認知症が治らない」「腎臓の病気が悪化した」「心不全で水分摂取量に制限があるのに大量摂取してしまった」などいろいろな批判や誤解が広がっていた時期がありました。また、自立支援という一人一人の能力に応じた支援という意味とは違い、一律に水分量や栄養量などを推奨している点も批判の対象になっているようです。

自立支援介護で高齢者が陥りやすい廃用症候群・老年症候群を防ぐ

竹内教授の推奨する自立支援介護は、その人が持っている能力に応じて必要な介助や支援を行うという自立支援の概念とは少し異なります。しかし、介護施設などで生活する高齢者が陥りやすい廃用症候群・老年症候群まっしぐらの状態を防ぎ、その結果、体や心が元気な状態を作り出すので活動意欲や活動の原動力が保たれるという大きな利点があります。

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介護施設で自立支援介護の取り組みをするメリット

従来の特養などの介護施設では、入所すると水分は3度の食事の時だけ、高齢者だから質素で少食、1日中座りっぱなしや寝たまま、便通が3日なければ下剤で排泄ということがごく普通でした。このような考え方から少しでも脱却してきたのは、わかりやすい自立支援介護の提言のおかげもあると感じます。実際、介護業界では1日にこまめに水分をとりましょうということや、自然排便が理想的という概念は定着してきました。

最近は自立支援介護の視点もさらに進んで、施設内で座るときは車椅子から移乗して普通の椅子などで過ごす、背もたれなしで過ごす時間を作る、オムツでの排泄を減らしてトイレで排泄できるようにその人の能力に合わせていろいろな方法を考えるなど、本来の自立支援に近い形の取り組みも目立ってきました。

まとめ

介護分野ではますます自立支援が注目されてますが、この記事で紹介したように、自立支援介護の視点でご本人の健康状態を保つための基礎的な支援を行なった上で、それぞれの能力に応じてできることやしたいことを見極めて支援するという自立支援型の介護を実践していくことが大切です。

自立支援の視点でケアを行うと、ご利用者の本当の力や、心配なところが見えてきます。そのような気づきをご利用者と共有して、一緒に元気に苦痛や不安が少なく生活できるように取り組むことは介護やリハビリの仕事の醍醐味のひとつだと思います。ぜひ、介護施設やデイサービスなどでも自立支援を実践してみてくださいね!

デイサービスでは自立支援でインセンティブも

地域で生活する要介護者を支えるデイサービスでは、自立支援を目指して計画的に機能訓練した場合、個別機能訓練加算という形で介護報酬が給付されます。

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これは、国家的にも介護施設で自立支援を推進して欲しいという方針であり、身体面・活動面・社会面など含めてご利用者の自立に向けた介護を実践できない事業者は切り捨てるような印象さえ感じます。介護保険制度ができたばかりの頃は、まだ介護施設が少なく、報酬も高めで設定されていたのでいろいろな事業者が参入しましたが、現在は介護の質や事業者としてのアウトカム評価までを示すことまで求められています。デイサービスでは、ADLの自立度のアウトカム評価がデイサービスそのものの評価の一つになりつつあります。

介護施設で自立支援の要素が足りていないと感じる場合には、少しずつ自立支援型の介護に近づけていくことをお勧めします。これはより高い報酬を得るということはもちろんですが、ご利用者の元気を根拠と自信を持ってしっかりと支えるということが大切だからです。

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この記事の著者

作業療法士  大屋 祐貴

作業療法士として、回復期リハビリテーション病院や救急病院、訪問リハビリに勤務し、医療・介護現場の幅広い分野を経験。現場のリハビリテーション技術を高めるために研修会の立ち上げ等を行う。

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