経験や勘によるケアが思わぬ事故に!?介護士に必須の心得

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更新日:2024/04/26

介護現場で長年働くうちに、いつのまにやら経験や感覚、勘に頼ったサービス提供になってしまっている方もいるのではないでしょうか?もし心当たりがあるなら、要注意です。「これで大丈夫だろう」という判断が思わぬ事故を招きかねないからです。今回、一般社団法人エイジレスライフ協会理事で看護師の新開千世さんに介護士としての心得について実体験を踏まえたコラムを寄稿してもらいました。利用者様に満足いただけるデイにするための参考にしてください。

【今回の話者】
一般社団法人エイジレスライフ協会理事・看護師 :新開千世
介護福祉士取得後、働きながら看護師を取得。病院、施設にて勤務。デイサービスで管理職を経て、看護師・サービス管理責任者として従事。

介護士としての4つの心得

デイサービスには、管理者、介護スタッフ、機能訓練指導員、看護師、生活相談員と様々な職種があります。

そのため、介護スタッフだけではなく、これらの多種多様な専門職が協力して、チームでご利用者様のケアを行っているのです。ここではチームの一員として考えて頂きたい介護スタッフの4つの心得をご紹介します。

心得1:自己判断をしない

心得2:根拠(医学的知識)を知る

心得3:ルールを守る

心得4:範疇から出ない

では、これら4つの心得について私自身の実体験に基づいたエピソードを通して紹介しましょう。

「大丈夫だろう」という思いが招いた事故

嚥下障害がある利用者Aさん。
水分を提供する際は必ず、本人持参のとろみ剤を使用していました。

その日、お茶担当だったのは介護スタッフのBさん。Aさんのとろみ剤を探しましたがなかなか見つからなかったため、お茶にとろみをつけずに提供してしまったのです。

その場では大きなむせ込みはありませんでした。しかし、その後、誤嚥性肺炎を起こし入院してしまい、デイサービスの利用が停止となってしまう事態を招いてしまったのです。

スタッフのBさんに、なぜとろみをつけずにお茶を提供したのかを聞くと、「1杯くらいなら大丈夫だろう」と思ったとのことでした。「大丈夫だろう」という思い込みは大変危険です。

  1. とろみをつけるには理由があり、飲む量は関係ありません。嚥下障害の人の飲み物にとろみをつける理由は水分をゼリー状にすることにより、咽頭を通るスピードが遅くなり嚥下反射に遅れがある人でも誤嚥しにくくなります。
  1. 粘度をつけることで、まとまりやすくなるため、咽頭から食道に送られる際に気管に水分が流れてしまうことも防いでいます。

スタッフのBさんは、自己判断をしてしまい、とろみをつけるというルールを破ってしまいました。なぜとろみが必要なのか、その根拠を知っていたら防げていた事故と言えます。また、チームで情報共有をしていたら未然に防止できていたケースです。

利用者への優しさと思いやりが招いた事故

心不全をお持ちの利用者Cさん。

1日の飲水量が800mlと制限されていました。デイサービスでは、来所時のお茶50ml、お風呂後50ml、機能訓練後50ml、その他50mlの計200mlと決めていました。

また、機能訓練も心臓に負荷がかからないようにメニュー内容と回数がしっかりと決められていました。

ある日、Cさんが「今日は調子が良いからもっと運動したい」と言ったため、介護スタッフのDさんは決められたメニュー以上の訓練を提供してしまったのです。またいつも以上に身体を動かしたCさんは、訓練後の水分も「もっと飲みたい」とおかわりを求めたため、Dさんは良かれと思い提供してしまいました。

その後、スタッフのDさんになぜ心不全の人に水分制限があるか知っているかを問いかけると「浮腫むから」という答えが返ってきました。さらに「飲みたいと言ってるのに水分をあげないなんてかわいそう。ルールも大切かもしれませんが私は利用者様に優しくしたいし、寄り添いたいです」とも言われました。

心不全の人に水分制限がある理由ですが、浮腫むからというわけではありません。

心臓は体内の水分を循環させるためにポンプとして働いています。つまり、過剰な水分を飲んでしまうと心臓がポンプの仕事を頑張ってしまうため、心臓が疲れてしまうのです。

そのため、水分を制限し心臓に過度なお仕事をさせないようにします。結果、体内で水分を循環できないため浮腫みという症状がでるのです。

機能訓練も同じです。心臓に負担をかけないようにするため、制限がかかっています。

制限を指示しているのは医師です。

「運動したい」「もっと水が飲みたい」。それらの思いに応えたい気持ちはわかります。しかし、それは本当に優しさや寄り添うということなのでしょうか。

今回のケースは大事には至りませんでしたが、心不全が悪化し、呼吸困難になって苦しい思いをしたり、入院をしたりしたかもしれません。優しさからとった行為が、結果的にご利用者様を不幸に陥れる可能性があったのです。

このエピソードも、「決められたルールを守らず自己判断をしたこと」「なぜそのルールが決まったのか、医学的な根拠を知らなかったこと」が背景にあった事例でした。

独断で行ったチューブ体操が招いた事故

人工透析の利用者Eさん。
左腕に、シャント(人工血管)がありました。

その日は、機能訓練指導員がお休みだったため、介護スタッフのFさんがチューブ体操を行ったのです。

翌日、Eさんのケアマネジャーから緊急の電話がかかってきました。

「Fさん、シャントが潰れちゃって急遽手術です。そのため、しばらくお休みします」と切羽詰まった声でおっしゃられました。前日のチューブ体操で、シャントが潰れてしまったのではないかというお話でした。

スタッフのFさんは、機能訓練指導員がいつも行っている体操を見ていました。確かに見よう見まねでできることではあります。

しかし、機能訓練指導員は、理学療法士や作業療法士、看護師といった医療者が従事しており、医療的知識がある中で行っています。

ご利用者様の疾患、注意点を理解してケアをするのとしないのでは、ケアの質の差どころか、ご利用者様の在宅生活を破壊してしまう可能性があります。

このエピソードも、ルールや自己判断、医学的根拠、範疇を超えた行動が招いた事故でした。

※血液透析とは、血管から血液を抜き出して、透析機で老廃物を除去してから体内に戻すという治療です。毎分約150~200mlの血液を抜き出して、また体内に戻します。その血液の出入り口となるのがシャントです。
シャントとは、静脈を動脈に縫い合わせてつないでおり、見た目では太い血管がぼこっと膨らんでいます。シャント部を聴診器で聴くと、シャンシャンシャンと血液が流れる音がしており、シャントが閉塞しているとキーンと高い音がします。シャントが閉塞すると透析が行えないため、再度シャントを造設する手術を行います。

余談・思わぬ警察沙汰

終末期の利用者Gさんはデイサービス以外に、訪問介護と訪問看護を利用されていました。

担当者会議では、毎日訪問するヘルパーさんが「私が看取るから安心してね」と熱い想いを語っていました。そんなお話をされてから数日後、突然、警察からデイサービスに「Gさんがお亡くなりになりました」という電話がかかって来たのです。なぜ警察からの連絡なのでしょうか。

ヘルパーさんが訪問した際、もう亡くなられていたため、死後硬直をしないように手首と足首を縛り、体勢を整えたそうです。

しかし、その手首と足首には生活反応と言われる皮下出血が残っていました。

このヘルパーさんは、亡くなったと思い込んで、まだ生きているGさんを縛ってしまったのです。そのため、警察沙汰となってしまったのです。

基本の心得を守りつつ介護現場と向き合おう

これらのエピソードは4つの心得があれば防げた事故です。

①自己判断をしない
②根拠(医学的知識)を知る
③ルールを守る
④範疇から出ない

どんなに想いや熱意があっても、ルールや医師の指示を守らなかったり、自分勝手なことをするとご利用者様の生活やご利用者様自身を守ることができません。

しかし、“なぜそのような支援をしなくてはいけないのか”、“なぜ禁止事項があるのか”を教えるのは医療従事者の役割でもあります。

医療的根拠がないと間違った支援をし、ご利用者様を最悪死に追いやったり、入院させてしまう可能性も多いにありえます。

つまり、ご利用者様の時間を奪ってしまうことになります。

介護士として、何ができるか、何をして良いのか、何はしてだめなのか。その範疇を知り、実践していく。それがご利用者様の人生、生活、命を守ることにもなります。

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この記事の著者

一般社団法人エイジレスライフ協会理事  新開 千世

介護福祉士取得後、働きながら看護師を取得。病院、施設にて勤務。デイサービスで管理職を経て、現在は障がい者グループホームも手懸けている一般社団法人エイジレスライフ協会にて理事就任。現場では看護師・サービス管理責任者として従事。実務者研修講師(介護過程Ⅲ、医療的ケア)としても活動中。地域包括ケアシステムに関わる人々を繋ぐハブとなれるよう、東葛医介塾を開設。塾長を務める。

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