介護の現場に笑顔を届ける福祉ネイル入門

福祉ネイルとは？介護現場に笑顔を届ける新しいサービス

福祉ネイルとは、高齢者や障がいを持つ方に向けたネイルケアのことです。一般的なネイルサロンでの施術とは異なり、利用者さんの身体状況や健康状態に配慮しながら、安全にネイルを楽しめるように工夫されています。

福祉ネイルの目的と効果

福祉ネイルの目的は、単なるおしゃれではなく、利用者さんの生活に彩りを加え、気持ちを明るくすることにあります。具体的な効果として、以下のような点が挙げられます。

目的	効果
精神的なリラックス	ネイルケアを受けることで、ケアの時間が確保され、「大切にされている」と感じられやすくなります。リラックス効果があり、不安やストレスの軽減につながります。
自己肯定感の向上	指先が美しく整えられることで、自分に自信が持てるようになります。介護施設では外見に気を配る機会が多くないため、ネイルを通じて「おしゃれを楽しむ喜び」を提供できます。
コミュニケーションの促進	ネイルケアを受けながら会話をすることで、利用者さんとのコミュニケーションが自然と深まります。認知症の方にとっては、心地よい触れ合いが安心感につながることもあります。
爪や手の健康維持	高齢者の爪は厚くなったり、割れやすくなったりすることが多いため、適切なケアを行うことで健康な爪を維持できます。また、ハンドマッサージを組み合わせることで血行が促進され、冷えやむくみの改善に効果を発揮することもあるでしょう。

参考：冷え性高齢者に対するフットマッサージの冷え症状の緩和効果

一般的なネイルとの違い

普通のネイルと福祉ネイルの大きな違いは、施術対象と施術方法の配慮です。

	一般的なネイル	福祉ネイル
施術対象	健康な成人	高齢者・障がい者・病気療養中の方
目的	美容・ファッション	精神的ケア・健康維持・QOL向上
施術場所	ネイルサロン	介護施設・病院・自宅訪問
使用する道具	ジェル・アクリルなどの硬い素材	低刺激・通気性の良い素材
衛生管理	基本的な衛生管理	感染症対策や爪の健康を考慮した管理

高齢者の場合、加齢による乾燥や皮膚の薄さ、病気などの影響で爪がもろくなっていることが少なくありません。そのため、通常のネイルよりも丁寧なケアが求められます。

また、認知症の方には強い香りのネイルポリッシュが刺激になる可能性もあるため、注意しましょう。無臭や低刺激のアイテムを活用することで、落ち着いてケアを行える場合もあります。

介護職が福祉ネイルを学ぶ意義とやりがい

介護職の方が福祉ネイルを学ぶことで、日々のケアに新鮮さを加えることができます。

利用者との関係性が深まる	介護の現場では、食事や入浴、移動などの基本的なケアが中心になりがちですが、福祉ネイルを通じて「楽しい時間」を提供できます。「ネイルをやってもらう時間が楽しみ」という利用者が増えれば、施設の雰囲気も明るくなります。
利用者の気持ちの変化を引き出せる	高齢者の中には「今さらおしゃれなんて」と思っている方もいます。しかし、実際にネイルケアを受けると「綺麗になってうれしい」と笑顔を見せる方もいるでしょう。気持ちが明るくなることで、日常生活への意欲が湧くこともあります。
家族やスタッフに好影響を与える	ネイルケアを受けた利用者が嬉しそうにしている姿を見ると、家族や介護スタッフの気持ちも和らぎます。特に、施設では家族が面会に来た際に「こんなに綺麗にしてもらっているんですね」と喜ばれるケースも生まれるでしょう。

福祉ネイルでできること｜具体的なサービス内容を紹介

福祉ネイルは、単なるおしゃれではなく、利用者の生活の質（QOL）を向上させるためのケアの1つになります。ネイルケアやハンドマッサージを通じて、リラックス効果や自尊心の向上につながるだけでなく、健康維持にも役立ちます。ここでは、介護施設で提供できる具体的な福祉ネイルのサービスについて解説します。

ネイルケア

ネイルケアは、高齢者の爪を清潔に保ち、健康を維持するために行われます。高齢者の爪は 乾燥しやすく割れやすい、厚く変形しやすい、巻き爪・陥入爪になりやすい という特徴があり、普段から慎重なケアが必要です。

爪切り

• ニッパー型爪切りを使用し、端から少しずつカット
• 深爪を避ける（指先と同じくらいの長さを残す）
• 硬い爪はぬるま湯でふやかしてから処理

爪やすり（ファイリング）

爪切り後、やすりで形を整え、割れやすさを防ぎます。

• エメリーボード（紙やすり）を使用し、優しく削る
• 一方向に動かすことで爪への負担を軽減
• 強い力をかけず、ゆっくり形を整える

甘皮処理

甘皮が過剰に伸びると雑菌が入りやすくなるため、適度な処理が必要です。

• キューティクルリムーバーなどで甘皮を柔らかくする
• ウッドスティックなどで軽く押し上げる（切りすぎない）
• 保湿クリームで仕上げ、乾燥を防ぐ

高齢者の爪は特にデリケートなため、優しく丁寧にケアを行いましょう。

ハンドマッサージ

ハンドマッサージは、ネイルケアとセットで行うとよりリラックス効果が高まります。指先から肘までを優しくほぐすことで、血行促進やストレス軽減につながります。

ハンドマッサージの手順

1. 手を温める：温かいタオルで包み、筋肉をリラックスさせる
2. オイルやクリームを塗る： 高齢者の肌を保湿し、摩擦を防ぐ
3. 指先から手のひらをもみほぐす：血行を促し、冷えやこわばりを改善
4. 手のひらを広げるように押す：ストレス緩和やリラックス効果を高める
5. 手首から肘へさする：リンパの流れを促し、むくみを軽減

高齢者にとってのメリット

ハンドマッサージには、血行を促進し、冷えやしびれを和らげる効果があります。特に指先や手のひらを優しくもみほぐすことで、血流が改善され、手の冷たさが軽減されます。また、人に触れられることによる安心感も大きなメリットの1つになるでしょう。適度な刺激が心地よさを生み、リラックス効果が高まります。

さらに、普段あまり手を動かさない方にとっては、関節の柔軟性を維持する良い機会にもなります。

カラーリング

ネイルのカラーリングは、見た目の美しさだけでなく、自己肯定感の向上のきっかけにもなります。高齢者には、爪に優しく負担の少ない方法を選ぶことが大切です。

カラーリングの種類	特徴
マニキュア	一般的なネイルポリッシュを使用し、除光液で簡単にオフできるため、介護現場でも取り入れやすい。
水性ネイル	爪への負担が少なく、アルコールで落とせる。匂いが少なく通気性も良いため、高齢者向き。
ジェルネイル（施設では難しい場合あり）	長持ちし光沢も美しいが、硬化ライトが必要で除去が難しい。短期間の施術ならソフトジェルを選ぶことも。

高齢者の爪を守るために、刺激の少ないアイテムを使用し、以下のように爪に負担をかけない方法を選びましょう。

低刺激のネイル用品を選ぶ	ホルムアルデヒドやトルエンを含まないポリッシュを使用すると、安全性が高い。
短期間で落とせるネイルを活用	長期間の維持が難しいため、水性ネイルやマニキュアが適している。
シンプルで落ち着いたデザインを意識	派手な色より、ピンクやベージュなどのナチュラルなカラーが好まれやすい。

福祉ネイルは、見た目の美しさだけでなく、心と身体のケアにもつながります。適切なケアを行いながら、利用者さんの笑顔を引き出しましょう。

福祉ネイリストになるには？資格取得のメリット

資格を取得することで、介護施設や医療機関でのネイルケアの提供が可能となり、利用者のQOL（生活の質）向上に貢献できます。

また、フリーランスとして独立開業も可能であり、訪問ネイルサービスやイベントでの活動など、多様な働き方が選べるようになるでしょう。

 JHWN認定 福祉ネイリスト検定試験とは？

福祉ネイリストとして活動するためには、特定の技術や知識が求められます。その指標となるのが、JHWN（一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会）認定の福祉ネイリスト検定試験です。この試験では、福祉ネイルの基礎から実践までを学び、介護の現場で活かせる技術を習得できます。

※2025年2月時点情報

参考：福祉ネイリスト®︎とは

試験の概要

JHWN認定の福祉ネイリスト検定試験は、福祉ネイルの基本技術や安全管理、利用者への配慮などを評価する試験です。合格すると、JHWN認定の福祉ネイリストとして活動できるようになります。

受験資格

試験は、特別な資格を持たない方でも受験可能です。ただし、福祉ネイルの基本を学ぶための講習受講が必須となります。そのため、試験を受ける前に、指定の講座で学習することが求められます。

試験内容

試験では、おおよそ以下のような項目が評価されます。

• ネイルケアの基本技術（爪の長さや形の調整、保湿ケアなど）
• カラーリング技術（安全にカラーを塗る方法）
• ハンドマッサージの実技（血行促進やリラックス効果を考慮したマッサージ）
• 衛生管理と安全対策（感染予防や高齢者への配慮）
• 利用者とのコミュニケーション（高齢者に安心してもらうための接し方）

資格取得のための学習方法

JHWNが指定する福祉ネイリスト講座を受講する必要があります。講座はオンライン・対面の両方が用意されており、自分のライフスタイルに合わせて学習が可能です。

参考：福祉ネイリスト®︎とは

学習期間

学習期間は、未経験者やJNEC3級を持っている方は3時間×7回（計21時間）、JNEC2級以上を持っている方は5時間×2回（計10時間）の講習を受けます。

学習方法

学習方法は、主に以下の3つです。

座学（オンライン・対面）	・高齢者の皮膚や爪の特徴・福祉ネイルの意義や役割・感染症予防や衛生管理など
実技講習（対面）	・ネイルケアやカラーリングの技術習得・利用者への安全な施術方法・ハンドマッサージの実践など
実習（施設での実践練習）	•高齢者や障害者に対するネイルケア•現場でのコミュニケーション実習•施術時のトラブル対処法など

費用

資格取得にかかる費用は、未経験者やJNEC3級をお持ちの方は88,000円、JNEC2級以上をお持ちの方は44,000円です（講習費・教材費込み）。別途、登録料3,000円／年、損害賠償保険5,000円～／年が必要となります。

資格取得のメリット

福祉ネイリストの資格を取得すると、介護や福祉の現場でさまざまなメリットがあります。

利用者のQOL向上に貢献できる

高齢者や障害者の中には、オシャレを楽しみたいと考えている方も少なからずいますが、加齢や身体的な制限によってセルフネイルが難しいケースがあることは、十分に考えられます。

利用者を施術することで、気分が明るくなり、自信につながるため、QOL（生活の質）の向上に貢献できます。

介護職員のスキルアップにつながる

介護職として働いている方が資格を取得すると、通常のケアに加えてネイルケアを提供できるようになります。

レクリエーションの一環として福祉ネイルを取り入れることで、利用者の楽しみを増やせる点がメリットです。

独立開業や副業が可能

福祉ネイリストは、介護施設や病院、訪問ネイルサービスなど、さまざまな場所で活躍できます。資格を取得すれば、フリーランスとして活動することも可能です。

たとえば、週末や空いた時間に訪問ネイルを提供することで、副業として収入を得ることもできます。

福祉ネイリストにも活かせる介護職員の知識や経験

福祉ネイルは、単に爪を美しく整えるだけでなく、利用者さんの心のケアにもつながる重要なサービスです。介護職員としての知識や経験があることで、より安全で質の高い施術を提供できます。特に、利用者さんの健康状態や身体的特徴を理解し、適切に対応できることは、福祉ネイリストとしての大きな強みになります。

また、介護職員として培ったコミュニケーションスキルを活かせば、施術中の安心感を高めることができ、利用者さんとの信頼関係を築く助けにもなります。ここでは、介護職の知識や経験がどのように福祉ネイルに活かせるのかを具体的に説明します。

利用者さんの身体状況に対する理解

福祉ネイルを行う上で、利用者さんの身体的特徴や疾患への理解は不可欠です。介護職員としての経験があると、高齢者に多い疾患や障害を把握し、それに応じた施術が可能になります。たとえば、以下のようなケースに適切に対応できるでしょう。

糖尿病	糖尿病患者の血流の悪さや感染リスクの高さを理解し、日常的なケアから気を配る必要があります。福祉ネイルにおいても、爪を切る際の傷防止や消毒を徹底し、小さな傷が感染につながらないように配慮することが重要です。
関節リウマチ	介護の現場では、関節リウマチの方の関節の変形や痛みを考慮しながら介助を行うケースがあるでしょう。福祉ネイルでも、強く握らないよう注意したり、手指の動かし方に配慮することで、痛みを軽減しながら施術できます。
脳梗塞後遺症（片麻痺）	片麻痺のある方は、麻痺側の手のセルフケアが難しくなります。介護の経験があれば、麻痺の程度などを見極め、利用者さんが不自由を感じないようなサポートができるでしょう。たとえば、爪の長さや形を整える際に、麻痺側の指を支えながら丁寧に施術することで、より快適なネイルケアを提供できます。
認知症	認知症の方は施術中に突然動いたり、不安を感じることがあります。介護職の経験があれば、利用者さんの表情や動きを観察し、不安を和らげる声掛けができるでしょう。「少しだけ手を触れますね」「もうすぐ終わりますよ」といった安心感を与える言葉が、施術のスムーズな進行につながります。

介護の経験を活かし、安全で適切な施術を提供することで、利用者さんにとってより快適なネイルケアが実現できます。

コミュニケーション能力

福祉ネイルにおいては、技術だけでなく、利用者さんとのコミュニケーションが大切です。介護職の経験があると、高齢者との接し方に慣れており、施術中の安心感を高める会話の工夫ができます。以下のようなポイントを意識すると、よりスムーズに信頼関係を築けます。

ゆっくりした口調で話す	介護の現場では、高齢者の聴力低下に配慮し、ゆっくりした口調で話すことが求められます。福祉ネイルでも同様に、相手が聞き取りやすい速さと音量を意識することで、安心して施術を受けてもらえるでしょう。
「～してもよろしいですか？」と 確認しながら進める	介護では、利用者さんの意思を尊重しながらケアを進めることが大切になります。福祉ネイルでも同様に「次にこの指を整えますね」「オイルを塗っても大丈夫ですか？」と確認しながら進めることで、利用者さんが安心できる環境を作れます。
昔の話や趣味の話を取り入れる	介護の現場では、利用者さんとの会話を通じて安心感を与えるレクリエーションなどがあります。福祉ネイルでも「昔どんなオシャレが流行っていましたか？」といった話題を振ることで、リラックスした雰囲気を作り、施術の時間を楽しいものにできます。
表情やジェスチャーを活用する	介護職員は、認知症の方や聴力が低下している方に対して、言葉だけでなく表情やジェスチャーを活用することが重要であると理解しています。福祉ネイルでも、笑顔で接し、手の動きをゆっくり見せながら説明することで、より安心感を持ってもらうことができます。

福祉ネイリストは、単に爪を整えるだけでなく、利用者さんとの触れ合いを通じた「心のケア」も大切な役割です。介護職として培った知識や経験を活かしながら、施術の時間を心地よいものにしていきましょう。

福祉ネイリストに関する疑問

ここでは、福祉ネイルに関するよくある疑問とその回答を、信頼性の高い情報源を基に解説します。介護現場でのネイルケアを検討している方や、福祉ネイリストとしての活動を考えている方の参考になれば幸いです。

【Q1.福祉ネイルは、どんな人が受けることができますか？】

A.福祉ネイルは、主に高齢者や障がいを持つ方々を対象としています。特に、ネイルサロンへの来店が難しい方々に対して、施設や自宅などで出張サービスを提供しています。具体的には、介護施設の入所者、デイサービス利用者、自宅療養中の方などが対象となります。また、爪や皮膚にトラブルを抱えている方でも、安全で適切なケアを受けることが可能です。 

参考：福祉ネイルとは、主に高齢者・病気や障がいを抱えている方に行うネイルサービスです

【Q2.福祉ネイルの費用はどのくらいかかりますか？】

A.福祉ネイルの費用は、施術内容や提供場所によって異なります。一般的なサービスとして、ネイルケア、ハンドマッサージ、カラーリングなどがあり、料金の目安は以下の通りです。

ネイルケア	爪のカットや甘皮処理、爪磨きなどを含めると、約2,000円〜3,000円程度。
カラーリング	マニキュアやジェルネイルの施術で、約1,100円〜5,500円程度。
ハンドマッサージ	10分程度の施術で、約550円〜1,000円程度。

出張サービスの場合、別途交通費が加算されることが一般的で、550円〜1,000円程度の出張費が設定されている場合があります。 

具体的な料金は、提供者や地域によって異なるため、事前に確認することをおすすめします。

【Q3.福祉ネイルは男性でも受けられますか？】

A.福祉ネイルは男性でも受けることができます。特に、高齢の男性は爪が厚くなるなどのトラブルを抱えやすいため、適切なケアが必要です。福祉ネイルでは、性別を問わず、爪や手の健康をサポートする施術を提供しています。 

【Q4、福祉ネイルの資格は必須ですか？】

A.福祉ネイルを提供するために、必ずしも資格は必要ありません。しかし、専門的な知識や技術を習得することで、より安全で質の高いサービスを提供できます。たとえば、一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会（JHWN）が認定する「福祉ネイリスト®」の資格を取得することで、信頼性が高まり、活動の幅も広がるでしょう。「福祉ネイリスト®」は、JHWNの登録商標であり、資格が無くてもネイルケア自体は可能ですが、「福祉ネイリスト」と名乗って活動するためには、資格取得が必須となります。

介護現場で福祉ネイルを実践して笑顔を広げよう

福祉ネイルは、単なるおしゃれではなく、利用者さんのQOL向上やコミュニケーションのきっかけとなるケアの1つです。ネイルケアやハンドマッサージは、心地よい刺激を与え、リラックス効果をもたらします。また、カラーリングを通じて「きれいになった」と感じる喜びを提供し、自尊心の向上にもつながるでしょう。

福祉ネイリストになるため資格は必須ではありませんが、JHWN認定の福祉ネイリスト検定を取得し、利用者さんの身体状況に応じた施術ができるよう学ぶと安心して福祉ネイルを提供できるでしょう。

介護職員の知識や経験も活かせるため、介護の現場で働く人にとって福祉ネイルは新たなスキルとなります。介護現場でのネイルケアを取り入れることで、利用者さんの笑顔が増え、より豊かな時間を提供できます。