介護職の「言葉の暴力」とその事例|「言葉の暴力」の定義や適切な対応方法とは

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更新日:2024/09/13

介護現場では「言葉の暴力」が問題になることがあります。利用者へ声がけする際、いきおいあまって強い口調になったことがある人も多いのではないでしょうか。介護事業所ではどこまでが許されるのか?と悩んでいる人も少なくないと思います。この記事では、介護施設で問題になる言葉の暴力の例や防止策などをご紹介します。

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「言葉の暴力」の実態とは

介護現場の「言葉の暴力」とは「怒鳴る」「存在を否定する」など、利用者の心に傷を与える言葉です。

高齢者の虐待は「高齢者虐待防止法」によって5つの種類に分類されており、「言葉の暴力」は心理的虐待に該当します。

虐待の種類 内容
身体的虐待 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴力を加えること。
心理的虐待 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
性的虐待 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
経済的虐待 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分すること、その他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
介護放棄 高齢者を衰弱させるような著しい減食、長時間の放置、養護者以外の同居人による虐待行為の放置など、養護を著しく怠ること。

参考:​​高齢者虐待防止の基本|厚生労働省

厚生労働省の発表によると、介護従事者による虐待件数は徐々に増加傾向にあります。身体的虐待に次いで多いのが、言葉の暴力を含んだ心理的虐待です。

出典:​​令和4年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果|厚生労働省

言葉の暴力は目に見えないため、「これは言葉の暴力」という線引きが難しく潜在化しやすいとされています。

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介護職における「言葉の暴力」の定義とその範囲

一般的に「言葉の暴力」にはっきりとした定義はありません。受け手の感じ方により言葉の暴力と取られるケースもあります。

例えば下記のような言葉は「言葉の暴力」にあたるので注意しましょう。

  • あきらかな暴言
  • 上から目線での言葉
  • 侮辱するような言葉
  • 利用者を萎縮させるような言葉
  • 相手の存在を否定するような言葉

こうした言葉は利用者の心に傷を与える可能性があります。対策は後述しますが、個人の問題だけでなく、職場全体の問題として捉えて対策していくと良いでしょう。

介護現場のコミュニケーションのコツについては以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
介護現場のコミュニケーションのコツ|高齢者との意思疎通の効果と重要性

起こりやすい「スピーチロック」について

「言葉」に関連して、介護現場で注意すべきなのが「スピーチロック」です。

スピーチロックとは介護現場で起こる「3ロック」のひとつで、言葉で相手の行動を制限する行為です。

3ロック 内容
フィジカルロック いわゆる「身体拘束」物理的に利用者を拘束して動けなくすること
ドラッグロック 薬物の過剰投与・不適切投与により利用者を動けなくすること
スピーチロック 言葉により利用者の行動を制限すること

介護現場では「ちょっと待ってください」「今は寝てください」など、日常的にみられる言葉もスピーチロックに該当します。

スピーチロックは「行動意欲の減退」「行動抑制によるADL低下」「ストレスによる認知症状の悪化」などにつながる可能性があるため注意しましょう。

スピーチロックが起こる要因

スピーチロックが起こる原因は「人手が足りない」「複数の利用者の対応が重なる」「事故防止の意識のため」などがあげられます。

例えば、下記のような状況はどうでしょうか。

  • 転倒リスクがある利用者の歩行に付き添っている
  • 別の転倒のリスクがある方が立とうとしている
  • その場には自分だけ

この場合、事故防止のためとっさに「座ってて!」「動かないで!」など、スピーチロックとなる言葉が出てしまうケースもあります。

このような状況が起こる前に「職場環境の調整」「業務整理」などに取り組んだほうが良いでしょう。

スピーチロックの言い換え言葉

スピーチロックの対策として「工夫した言葉がけ」があげられます。下記に介護現場でよくあるスピーチロックと、その言い換え例を記載しました。

スピーチロック例 言い換え
ちょっと待ってください! あと○分で行きますね。
あちらに行ってください! あちらの席が空いていますよ。
危ないから動かないで! どうされましたか。何か気になることがありますか。
まだ座ってて! こちらに座りませんか。
だめです・やめてください! どうされましたか。
まだ寝ててください! ○時に起こしますから大丈夫ですよ。

上記のような言い換えで言葉の印象は大きく変わります。

また、「すみませんが、〇〇しませんか」「よければ、〇〇しましょう」など、クッション言葉を使うと柔らかいニュアンスで伝わりやすくなります。

言葉の暴力が及ぼす影響

言葉の暴力は、相手にどのような影響を与えるのでしょうか。下記に具体的な例をあげました。

  • 利用者の意欲・活気がなくなる
  • 家族の不信感につながる
  • ケアの拒否につながる
  • 身体的・性的などほかの虐待につながる

日常的に言葉の暴力を受けると、利用者は自信をなくし意欲・活気を失います。本人の様子の変化は、家族の不信感につながるでしょう。

また、認知症により「言葉の内容」を忘れても「嫌なことをいわれた」という感情は残るものです。結果として「暴言をはかれた相手のケアを拒否する」「その人といるときは不穏になる」などにつながります。

利用者へ言葉の暴力を浴びせることがきっかけで、虐待が常態化し身体的虐待や、性的虐待に発展していくケースもあります。

介護における尊厳について、以下の記事で詳しく解説しています。こちらも参考にしてください。
介護の尊厳とは?|守るべき原則と具体的な介護事例

介護職における言葉の暴力の事例

言葉の暴力の具体例はどのような発言が該当するのでしょうか。

  • 萎縮させるような発言
  • 侮辱するよう発言
  • 本人の存在を否定するような発言

上記の3つのパターンに分けて解説します。

萎縮させるような発言

言葉の暴力には、利用者を萎縮させるような発言が該当します。下記は心理的虐待の典型的な例です。

  • 認知症のある方へ「お前アホだから黙っとけ!」と罵る
  • 何度も徘徊する利用者へ「ふざけるな!部屋から出るな!」と怒鳴る
  • 失禁を繰り返す方に「また漏らしてるの?いい加減にしろ!」と罵る

これらは「業務の忙しさによる心理的余裕のなさ」「ほかに相談する職員がいない」などで起こる事例もみられています。

参考:​​高齢者虐待対応事例|茨城県

侮辱するような発言

相手を侮辱するような発言も言葉の暴力です。

「侮辱」とは、相手を「軽くみる・あなどる(侮)」「はずかしめる(辱)」という意味があります。介護現場の侮辱の例は下記です。

  • 失禁がある利用者の部屋で「うわ、くさい…」という
  • 子どものように扱い「そんなこともできないの?」とからかう
  • 食べこぼしがある方へ「はー、またか」「汚いなー」と発言する

侮辱するような発言は、「相手を下に見ている」といった気持ちから起こるものです。倫理観・接遇マナーなど、職員個人への指導をしたほうが良い事例だといえるでしょう。

本人の存在を否定するような発言

利用者の家族や、本人の存在を否定するような発言も言葉の暴力です。「存在を否定する」のは尊厳をおとしめる行為で、介護現場ではあってはなりません。

  • ほかの利用者や家族に悪口を言いふらす
  • 認知症の利用者に「もう何もわからないよね」という
  • 利用者の側で「あの人はもうダメだから」と職員同士で話す

認知症や難聴で「聞こえてない」「言葉が理解しづらい」といっても、話している雰囲気は本人へ伝わります。

深い意図がなくても、慢性的にこのような言葉をかけられると利用者は傷つき、「活気がなくなる」「無気力になる」などにつながるでしょう。

言葉の暴力に対する適切な対応方法

介護現場の「言葉の暴力」は、放っておいて解決できるものではありません。ここからは言葉の暴力への3つの対応をご紹介します。

  • 普段の言葉遣いの教育
  • 職員が相談しやすい雰囲気作り
  • 人員配置の工夫による多忙の解消

それぞれみていきましょう。

普段の言葉遣いの教育

言葉の暴力を未然に防ぐには、接遇や言葉遣いの教育が重要です。

厚生労働省による​​令和4年度の「高齢者虐待に関する調査」によると介護施設での虐待の原因の56.1%が​​「教育・知識・介護技術等に関する問題」であるとしています。一方で「​​虐待を行った職員の性格や資質の問題」は9.9%となっています。

心理的虐待の原因は「個人の人格の問題」ではなく、「正しい対応を知らない」「利用者への理解がない」など知識不足・教育不足から起こるケースが多いのです。

また、言葉の暴力は、日々の言葉の乱れから起こります。

  • 上から目線で利用者に話しかける
  • タメ口・赤ちゃん言葉で話す
  • 「ちゃん付け」「あだ名」で利用者を呼ぶ

上記は基本的に目上の相手に使う言葉ではありません。日本介護福祉士会では「倫理基準(行動規範)」で、利用者の尊厳の保守などを定めています。こうした倫理観や、日々の言葉遣いなどを教育していくのも重要です。

介護現場でのマナーや接遇については下記の記事もご覧ください。
▶︎介護の接遇マナーとは?5原則と正しい言葉遣いや身だしなみなどを解説

職員が相談しやすい雰囲気作り

言葉の暴力は、職場環境によっても起こります。防止策として相談しやすい雰囲気作りは大切です。

過去に茨城県の介護施設で発生した心理的虐待の事例がありました。その施設の職員から虐待の要因として下記の意見が聴取されています。

  • ​​「職員同士の話し合いの機会がない。」
  • 「マニュアルがどこにあるのかわからない。」
  • 「だれに報告することになっているか、よくわからない。」

言葉の暴力は職員ひとりの責任ではなく、こうした職場環境の問題です。

「職員のストレスコントロールのために相談しやすい雰囲気作り」「対応が難しい利用者の対応の共有」など、誰かひとりが問題を抱え込まないような環境作りを意識しましょう。

職員のストレスマネジメントについては下記の記事で詳しく解説しています。
▶︎介護のストレスマネジメント研修とは?現場でできる研修内容・基本的なストレスマネジメント方法

参考:​​第5章 高齢者虐待対応事例|茨城県

人員配置の工夫による多忙の解消

業務改善や、適切な人員配置による忙しさの解消も、言葉の暴力による心理的虐待の予防法です。

厚生労働省の調査で虐待の要因としてあげられているのは、「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」です。ほかの要因と比べて全体に占める割合は少ないですが、業務改善による職員の負担軽減は大切といえるでしょう。

こうした人材不足を補うため、厚生労働省から「ICT機器の活用」「​​業務の明確化と役割分担」「記録・報告様式の工夫」など業務効率化の情報が発信されています。

各現場で実情は異なります。まずは、業務改善のためには「現状の課題の把握」「改善計画の立案・実行」「計画の振り返り」などを行いましょう。

下記のリンクは、デイサービスで業務改善のためのタブレット導入事例や、業務改善ためのマニュアル作りの方法を紹介した記事です。IT化を検討している方はぜひご覧ください。
▶︎デイサービスのタブレット導入|効率アップ・人員不足のサポートに役立つ導入事例
▶︎デイサービスの業務分担表など、業務効率化につながるマニュアルの作り方をご紹介!

参考:​​より良い職場・サービスのために今日からできること|厚生労働省

なぜ言葉の暴力が起こるか理解してうまく対策しよう

本記事は介護職の「言葉の暴力」について下記を解説しました。

  • 「言葉の暴力」の実態とは
  • 介護職における「言葉の暴力」の定義とその範囲
  • 起こりやすい「スピーチロック」について
  • 言葉の暴力が及ぼす影響
  • 言葉の暴力に対する適切な対応方法

「言葉の暴力」は「相手の存在を否定する」「感情のままに怒鳴る」など、心理的虐待にもつながる行為です。故意でなくても言葉の暴力に該当する場合があるため注意しましょう。

介護現場の「スピーチロック」「言葉の乱れ」は、言葉の暴力につながります。これらは職員の倫理観だけの問題ではなく「職場環境」「教育」も関係する問題です。

本記事で紹介した内容を参考に、環境の見直しをはかってはいかがでしょうか。

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この記事の著者

Rehab Cloud編集部   

記事内容については、理学療法士や作業療法士といった専門職や、デイサービスでの勤務経験がある管理職や機能訓練指導員など専門的な知識のあるメンバーが最終確認をして公開しております。

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