脳梗塞の後遺症改善・回復を目指す!効果的なリハビリ方法

機能訓練

全身

更新日:2024/11/06

脳梗塞のリハビリや機能訓練は、失った機能を取り戻すことを目的として、デイサービスや介護施設で行われます。リハビリは急性期、回復期、維持期の3段階に分かれており、時期と症状によってその方に合わせた方法が用いられます。リハビリの目的は、後遺症を軽減し、残された機能を強化することです。後遺症には麻痺や関節の拘縮などがあり、それぞれに対応した訓練が行われます。身体機能の向上だけでなく、心理的サポートや社会参加の促進も重要です。この記事では、脳梗塞の後遺症と機能訓練についてわかりやすく説明します。

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脳梗塞のリハビリ・機能訓練とは

介護現場では、リハビリと機能訓練は同じ意味で用いられることがあります。しかし、医療現場では、リハビリと機能訓練は明確に分けて考えられます。

リハビリはリハビリテーションの略語で、一般的に医療分野で用いられる用語です。リハビリは、患者や利用者が人間らしく生きる権利の回復を図るため、身体的・心理的・社会的な機能の全般的な回復を目指すものです。

一方、機能訓練は障がい者が日常生活の動作や活動を維持・向上させるための訓練を指します。機能訓練は、機能回復を目的とした治療の一環として行われることが多いです。たとえば、歩行訓練や筋力強化などの具体的な機能の向上や、食事や・着替え・入浴などの基本的な生活動作の訓練が中心となります。

リハビリは全体的な生活の質を向上させることを目的としており、機能訓練と全く同じ内容を示すものではありません。

介護事業所では、機能訓練とリハビリを明確に分けて用いる機会は多くありません。同じ意味で使われることが多いため、ここでは脳梗塞の方に行うトレーニング全般を「リハビリ・機能訓練」として話を進めます。

ここからは、脳梗塞のリハビリ・機能訓練を行う場所と対象者について解説します。

【リハビリ・機能訓練を行う場所】

脳梗塞患者のリハビリと機能訓練は、発症からの時期別に以下の3段階に分けて行われます。

  • 急性期
  • 回復期
  • 維持期(生活期)

それぞれの段階で回復段階や身体状況が異なるため、各期の基本的な違いを理解するとよいでしょう。

急性期は、脳梗塞が発症してから数日から数週間を指します。この時期は病院の治療と並行して、機能訓練室やベッドサイドで早期のリハビリを開始します。医療の現場では全身状態が不安定なため、十分なリスク管理を行いながらリハビリが進められます。

回復期は急性期を過ぎて患者の病状が安定し、リハビリに重点を置く時期です。数週間から数ヵ月、リハビリ専門の病院で集中的なリハビリが行われます。リハビリは患者の状態により異なりますが、自宅退院や社会復帰に向けて機能訓練室や食堂・風呂場・屋外など多様な場所で行われます。

維持期(生活期)は、病院退院後に、自宅や介護施設で生活する時期です。この期間は、回復期で得た機能を維持し、さらなる改善を目指します。自宅や施設などでの生活環境に適応するための支援が行われます。デイサービスやデイケア、自宅などで行われます。日常生活動作の機能訓練は、目的に合った運動ができる環境であれば、特に場所を選びません。運動方法によって、さまざまな場所で行われます。

【リハビリ・機能訓練の対象】

脳梗塞の後遺症によって手足の機能や生活に不自由が残っており、リハビリによって生活の質を向上・維持することができるのであれば、リハビリ・機能訓練の対象になります。

脳梗塞患者のリハビリと機能訓練は、それぞれの段階で異なる目標や方法があるため、これらの基本的な違いを理解しておくと良いでしょう。

各期のリハビリ目標と内容を以下に示します。

  急性期 回復期 維持期(生活期)
目標 ・患者の状態安定を図る。
・可能な限り早期にリハビリを開始し、後遺症の発生を最小限に抑える。
・基本的な身体機能の維持と、血栓の再発予防。
・失われた機能の回復。
・自立した日常生活を目指す。
・社会復帰を見据えた支援。
・獲得した機能の維持とさらなる向上。
・日常生活の質(QOL)の向上。
・再発予防と健康管理。
主なリハビリ・機能訓練の内容 ・呼吸訓練や体位変換による褥瘡(じょくそう)予防。
・軽い運動やマッサージで血流を促進。
・必要に応じて、言語療法や摂食訓練も行われる。
・理学療法士や作業療法士による運動訓練(筋力強化、関節の可動域拡大など)。
・日常生活動作(ADL)の訓練(食事、トイレ、着替えなど)。
・言語療法士による言語訓練や摂食訓練。
・訪問リハビリやデイサービスでの継続的な運動や訓練。日常生活動作の自主トレーニング。
・家族や介護スタッフによるサポートと介護技術の提供。
・必要に応じて、在宅環境の改善や福祉用具の導入。

脳梗塞のリハビリは医療保険や介護保険を用いて行うことが一般的です。ただし、自費のリハビリなどもあるため、保険の対象にならなければ機能訓練が行えないとは限りません。 

脳梗塞のリハビリ・機能訓練の目的

脳梗塞のリハビリ・機能訓練の主な目的は以下の通りです。

  • 失われた機能を回復させる
  • 残された機能を最大限に活用する
  • 日常生活の質を向上させる

早期から適切なリハビリを開始することで、回復の可能性が高まります。

具体的な目的としては、歩行や手の動き、言語能力の改善による日常生活の自立などが挙げられます。また、残された機能を最大限に活用するため、福祉用具等を活用して生活環境を整えることも重要です。

デイサービスなどで行われる維持期のリハビリでは、活動量の低下による二次的な筋力低下や耐久性の低下にも対応するケースがあるでしょう。

脳梗塞の後遺症とは

脳梗塞の後遺症は個々の患者によって異なりますが、一般的には以下のようなものが挙げられます。

運動障害 ・半身の麻痺や筋力低下が生じ、手足の動きが制限される
・麻痺の程度は「全く動かない」から「健側の動きとほとんど変わらない」まで様々
感覚障害 ・皮膚に触れたときの感覚が鈍くなる、または全く感じなくなる
・温度や痛み・圧力に対する感覚が鈍くなる、または全く感じなくなる
筋緊張の異常 ・筋肉の緊張状態が正常でなくなり、筋肉が異常に緊張し硬直したり、逆に筋肉の緊張が低下し筋力が弱くなることがある
・筋肉が異常に緊張すると、腕や足が固くなり歩行や物を持つなどの基本的な動作が困難になる
・筋肉の緊張が低下すると、腕や足が力なく垂れ下がることがあり、体を支える力が不足する
関節の拘縮 ・筋緊張の異常や関節を動かさない時間が続くと、筋肉や関節が硬くなり、関節の可動範囲が狭くなる
言語障害 ・言葉の理解力が低下する
・話す能力が低下する
嚥下障害 ・食べ物や水分の飲み込みが難しくなる

日常生活に欠かせない「寝返り・起き上がり」「起立動作」「歩行」などの基本的動作を行うためには、筋力と関節の柔軟性、バランス能力などが保たれていることが重要です。これらのすべての動作において、体幹の筋力が必要になるでしょう。立位を伴う動作においては股関節、膝関節、足関節の柔軟性と下肢全般の筋力が重要になります。

「着替え」や「トイレでの排泄」「入浴」「整容」「食事」などの動作を行うためには、先述した内容に加えて、肩関節・肘関節などの細かな関節の動きや筋力の調整が必要になります。さらに、細かい動作が必要になるボタンの留めはずしでは、指でつまむ力が重要になるでしょう。

脳梗塞の後遺症により運動障害や筋緊張の異常などが生じた場合、日常生活動作に関わる筋力や関節の柔軟性が十分に発揮できなくなることがあります。

後遺症の程度は人によってさまざまであり、どの機能が低下し、どの動作が難しくなっているのかを把握してリハビリ・機能訓練を進める必要があります。

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脳梗塞のリハビリ・機能訓練が重要な理由

リハビリの重要性について身体機能面、心理面、社会参加面の3つの観点から説明します。

【身体機能面】

リハビリを受けることで、低下した機能の維持・回復を目指すことができます。具体的には、脳梗塞によって損傷を受けた脳の部位に応じて、運動機能、言語機能、感覚機能が影響を受ける可能性があり、これらの機能の回復を目指します。

身体機能のリハビリとしては、理学療法士による歩行訓練や筋力強化訓練、作業療法士による日常生活動作の訓練、言語聴覚士による言語訓練などが挙げられるでしょう。これらの訓練を通じて、患者の機能回復が図られ、日常生活の質を向上させることができます

さらに、リハビリにより関節の硬直や筋肉の萎縮を防ぐことができ、これによって褥瘡や肺炎などの二次的な合併症の予防にもつながります。また、血液循環が改善されることで、全体的な体調の維持や向上も期待できるでしょう。

【心理面】

脳梗塞後の障害や制限により、患者は不安を感じやすく、うつ状態にも陥りやすくなります。リハビリを通じた機能回復の過程で自己効力感が高まる可能性があり、自信を取り戻すきっかけを作ることができるでしょう。また、リハビリの成果が見えることで患者は達成感を感じ、前向きな気持ちで生活を続けることができます。

さらに、リハビリは利用者と医療スタッフ、家族とのコミュニケーションを深める機会でもあります。これにより、利用者は支えられているという安心感を得ることができ、精神的な安定にもつながることでしょう。

【社会参加面】

リハビリによって、再び社会活動に参加する能力を回復できることも期待できます。

職場復帰や地域社会での活動、家庭内での役割(家事の一部を担うなど)への復帰は、患者のQOLの向上に大きな影響を与えることでしょう。

社会復帰に向けたリハビリは、具体的には職場復帰訓練や趣味活動の再開支援などが含まれます。

また、リハビリを通じて、利用者は新しいスキルや興味を見つけることができるかもしれません。新たな興味などが生まれたことにより、コミュニティ参加などによって社会的なつながりが強化され、孤立を防ぐ機会が生まれるケースもあります。

社会参加の機会が増えることで、利用者は生きがいや目的を持ちやすくなり、幸福感が向上しやすくなるでしょう。

脳梗塞に対するリハビリ・機能訓練の方法

まず、脳梗塞に対するリハビリ・機能訓練はどのように行われるのかについて、以下の3つの視点から解説します。

  • タイミング
  • シチュエーション
  • 訓練を行う人

以下で、詳しく説明します。

【脳梗塞のリハビリ・機能訓練を行うタイミング】

発症直後のリハビリ開始時期は、合併症を予防し機能回復を促進するために、24~48時間以内に病態に合わせたリハビリテーションの計画を立てることが勧められています。リスクが高い時期の訓練は避けるべきですが、早期のリハビリが重要となります。

脳梗塞発症から約1週間から数か月間にかけて、回復期のリハビリが行われます。この時期は、神経機能の自然回復が最も活発であるため、集中的かつ効果的なリハビリを行うことが推奨されます。

デイサービスなどを利用する維持期の利用者は、体調が安定していることが多く、自宅退院後や施設入所中に積極的にリハビリ・機能訓練を行うことが望ましいとされています。

【脳梗塞のリハビリ・機能訓練を行うシチュエーション】

脳梗塞のリハビリ・機能訓練を行うシチュエーションは、主に以下の4つです。

自宅 ・訪問リハビリや日常生活の中でリハビリを行います。理学療法士や作業療法士が自宅を訪問し、個別のリハビリを提供します。
・起き上がりや歩行などの基本的な動作に加え、家事を含めた自宅生活内での活動をリハビリの一環として行います。
介護施設(入所) ・専門スタッフによる個別のリハビリプログラムが提供され、日常生活動作の回復を目指します。
・施設内では、理学療法士や作業療法士、看護師や介護士などが連携してリハビリを進めます。食事や入浴、排泄など、生活全般にわたるサポートが行われ、患者の総合的な機能回復を支援します。
・集団でのリハビリ活動もあり、他の入所者との交流を通じて社会的なつながりを持つことができます。
介護施設(通所) ・デイサービスなどの介護施設を利用することで、日中にリハビリを受けることができます。家に帰ることができる安心感を持ちながら、施設での訓練を受けられます。
・集団での訓練や個別のリハビリが行われます。理学療法士や作業療法士が指導するリハビリを受ける場合もあります。また、施設のスタッフがサポートし、生活動作のリハビリを行います。
病院(入院) ・理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などの専門家による集中的なリハビリが行われます。特に回復期において、機能の回復を目指して集中的に訓練を行います。
・入院期間中は、リハビリの他にも医療的な管理や治療などが同時に行えるため、全身の健康状態を包括的にサポートできます。
・病院内のリハビリ施設には、リハビリ機器や設備が整っている所が多く、効果的なリハビリが行えます。また、専門スタッフが患者の状態を細かく観察し、最適なリハビリプログラムを提供します。
病院(通院) ・週に数回、外来でリハビリを受けることで、退院後も継続的にリハビリを行うことができます。外来リハビリでは、通院により専門家の指導を受けることで、機能回復を持続的に支援できます。
・患者の状態に応じてプログラムが調整されます。外来でのリハビリと並行して、家庭での自主トレーニング指導なども行われます。

上記のように、リハビリを受けられる場所は数多くあります。ただし、それぞれの介護事業所や医療機関などによって特性は異なります。

【脳梗塞のリハビリ・機能訓練を行う人】

脳梗塞のリハビリや機能訓練は、多職種の専門家が協力して行います。以下で、職種と役割を解説します。

理学療法士 ・運動機能の回復を目指してリハビリを行う専門家
・筋力や柔軟性、バランス、歩行能力の向上を目指します。
作業療法士 ・日常生活動作(ADL)の改善を目指してリハビリを行う専門家
・食事、着替え、入浴、家事など、日常生活で必要な動作を訓練します。
言語聴覚士 ・言語や嚥下機能の回復を目指してリハビリを行う専門家
・言語障害や嚥下障害のある患者に対して訓練を行います。
看護師 ・患者の全体的な健康管理とリハビリのサポートを行います。
・日常的なケアを提供しながら、リハビリ計画に基づいた支援を行います。
介護福祉士 ・日常生活の中で患者をサポートし、リハビリ計画に基づいた適切な訓練を行います。
・患者の生活の質を向上させるために重要な役割を果たします。

このほかにも、自宅で安全に機能訓練を継続するために、家族のサポートが欠かせません。

脳卒中治療ガイドライン2021では、利用者の機能改善と活動性を維持するため、利用者や家族への情報提供(基本動作・日常生活動作の現状・継続的な訓練の必要性とその内容・介護方法・脳卒中発症後のライフスタイル・福祉資源など)と脳卒中知識の啓発が勧められています。

参考:脳卒中治療ガイドライン2021におけるリハビリテーション領域の動向

初級レベルの訓練

  1. 椅子などに、姿勢を正して座ります。「体を起こして座りましょう。」と声かけすると良いでしょう。
  2. 麻痺側の手首を、健側の手で持ちます。見本を見せながら、「手首をつかみましょう。」と声かけすると良いでしょう。
  3. ゆっくりと肘を伸ばし30秒程度伸ばし続けます。これは、二の腕の筋肉(肘を曲げる筋肉)のストレッチです。「肘を伸ばして、肘を曲げる筋肉をストレッチしましょう。」と声かけしてください。急に肘を伸ばすと、痛みが出たり、力が入ってしまうことがあります。ストレッチは、痛みのない範囲で行いましょう。
  4. ゆっくりと元に戻します。
  5. これらを反復して行います。

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中級レベルの訓練

  1. 椅子に座り、前方の台に手を置きます。台が高すぎると手で支えにくいため、お臍の高さより低い台を用意すると良いでしょう。声かけは、「台に手をついてください。」と伝えてください。このとき、足の位置が膝よりも前にあると、立つことが難しくなります。「足を後ろに引きましょう。」と声を掛けると良いでしょう。
  2. 腕の力を使用し、お尻を持ち上げます。「手で支えながら、お尻を持ち上げてください。」と声かけすると良いでしょう。腰や膝に痛みがある場合は、無理のない範囲で行ってください。
  3. ゆっくりと立ち上がります。「ゆっくりと立ちましょう。」と声かけをすると良いでしょう。立位をとったときに、屈んでいたら「体を起こしましょう。」と声かけをしてください。腰や膝に痛みがある場合は、無理のない範囲で構いません。

椅子の高さを高くしたり、手すりを活用したりすると負荷が軽くなり、訓練が行いやすくなります。

上級レベルの訓練

  1. 健側の手で、手すりを持って立ちます。
  2. 一歩前へ足を踏み出します。「足を一歩前に出しましょう。」と声かけしてください。麻痺側の脚の支えが弱い場合は、健側の足を出すときに不安定となることがあります。転倒に注意し、いつでも支えられる場所で見守りましょう。足を踏み出す幅は、利用者の能力に合わせて徐々に大きくすると効果的です。
  3. 一歩後ろへ足を引きます。「足を元に戻しましょう。」と声かけするとよいでしょう。このとき、前のめりにならないよう体を起こしたままキープできると効果的です。

このほかにも、サイドステップなど横の動きを取り入れることで、バランス能力の改善を図ることができます。

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日常生活への応用

訓練内容を日常生活に取り入れるためには、リハビリで学んだことを実践するきっかけ作りが大切です。以下に、いくつか具体的な方法を紹介します。

歩行訓練の応用 ・スーパーマーケットや近所の商店への買い物を歩行訓練として活用する。
・ 毎日の散歩をリハビリの一環として取り入れる。
日常動作の応用 ・掃除、料理、洗濯などの家事動作の一部をリハビリとして取り入れる。
・ガーデニングや手芸、料理などの趣味活動をリハビリに取り入れ、楽しみながら体を動かす機会を作る。
社会参加の応用 ・地域のボランティア活動に参加し、社会的なつながりを保ちながらリハビリをする。
・地域のサークルやクラブに参加し、他の人との交流を楽しみながらリハビリをする。
家庭での継続的な訓練 ・毎日の習慣の中に軽いストレッチやエクササイズを組み込む。
・家族と一緒にリハビリを行う。

以上のように、リハビリで学んだことを日常生活に応用することで、より実践的かつ効果的なリハビリが可能になります。生活の中で自然とリハビリが行えるようになると、活動量が増加し、機能回復を図りやすくなるでしょう。

ただし、習慣にする運動は、過負荷に注意しましょう。継続的に行う運動なので、無理なく続けられることが重要です。

また、新しく習慣にする際には心理的な負担がかかるため、訓練のきっかけを作ることも大切になるでしょう。

参考:空間認知の科学最前線 習慣形成の健康心理学

効果的な訓練を行うためのポイント

効果的な訓練を行うためには、支援者が訓練のコツと継続のためのモチベーション維持方法を理解した上で支援することが大切です。

ここでは、効果的な訓練のコツと継続のためのモチベーション維持方法について解説します。

効果的な訓練のコツ

効果的な訓練を行うためには、以下の5つのコツを押さえると良いでしょう。

  • 適切な目標設定をする
  • 日常生活に即した訓練を行う
  • 継続的なサポートをする
  • 個別対応を行う
  • 安全な環境で訓練を行う

それぞれの詳細を以下に解説します。

【適切な目標設定をする】

利用者の現在の状態を評価・意見を聴取し、達成可能な目標を設定することが重要です。目標は、小さなステップから始め、具体的な動作や活動に設定するとよいでしょう。たとえば「1人で椅子に座れる」と短期目標を設定し、次に「1人で椅子から立ち上がれる」と長期目標を立てるなどが考えられます。

【日常生活に即した訓練を行う】

食事・着替え・入浴などの日常生活をリハビリの一環として捉えましょう。実際の生活場面で訓練を行うことにより、利用者が環境に適応しやすくなります。ただし、適切な目標設定をした上で取り組むことが大切です。達成困難・過負荷な動作を続けてしまうと利用者は疲労し、訓練に挫折感を感じてしまいます。自宅の環境について困り事があれば、訪問リハビリなどを活用してアドバイスをもらうと良いでしょう。

【継続的なサポートをする】

機能を改善・維持するためには、訓練を継続的に行うことが重要です。無理のない範囲で少しずつ負荷を増やすことで、患者の体力や機能が向上しやすくなるでしょう。利用者がリハビリ・機能訓練を長期的に継続するためにはモチベーションの低下を予防し、生活の中で活動が習慣化されることが大切になります。支援者は長期的な視点を持って、利用者をサポートすると良いでしょう。

【個別対応を行う】

利用者一人ひとりの状態やニーズは異なります。個別の訓練計画を作成し、状態の変化や利用者の反応に応じて、訓練内容や方法を柔軟に調整すると良いでしょう。利用する医療機関や介護事業所などの特性によって、どの程度の個別対応が可能かは異なります。状況に合わせて、専門家に相談すると良いでしょう。

【安全な環境で訓練を行う】

転倒や怪我のリスクを避けるため、手すりや滑り止めマットを使用するなど安全な環境を整えましょう。また、利用者の体調や疲労度を観察し、休憩を適宜取り入れることも大切です。脳梗塞の後遺症によって、バランス能力が低下するケースは少なくありません。安全な環境で動作できない場合、恐怖感から全身に力が入ってしまい、上手く動作が行えなくなる場合もあるので注意しましょう。

継続のためのモチベーション維持方法

脳梗塞の機能訓練を継続するためのモチベーション維持方法について、以下の2つの視点から解説します。

  • 高齢者がモチベーションを落としやすくなる理由
  • 訓練を続けるための工夫やサポート方法

以下で詳しく解説します。

【高齢者がモチベーションを落としやすくなる理由】

脳梗塞後の高齢者は、半身の不自由さから活動量が低下しやすく、2次的に筋力低下や体力の低下が生じることもあります。半身の不自由さから、着替えや入浴などの生活動作に時間がかかり、疲労感も大きくなるでしょう。これらの理由から訓練に対するハードルが上がり、モチベーションが落ちやすくなってしまいます。

【訓練を続けるための工夫やサポート方法】

訓練を続けるための工夫やサポート方法について、以下の3つを紹介します。

ポジティブなフィードバック ・小さな成功体験を作り、積み重ねることで利用者の自信とモチベーションを高める。
・努力や進歩に対して積極的に褒め、励ますことが大切。
・ネガティブなコメントは避け、前向きな態度を保つ。
家族との連携 ・訓練の進捗状況や目標を家族と共有し、協力を得ることでモチベーションが高まりやすくなる。
・家族が励ましながら、自宅での訓練や日常生活でのサポートを行うと良い。
専門家のサポートを受ける ・理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職の指導の中で、適切な訓練計画や環境設定のアドバイスを受けられる。
・困難に当たり、モチベーションが低下する恐れがある時に相談できる。

参考:脳卒中治療ガイドライン2021におけるリハビリテーション領域の動向

脳梗塞のリハビリ・機能訓練の注意点

脳梗塞のリハビリ・機能訓練を行う際の注意点を以下にまとめましたのでご参考ください。

ストレッチは痛みのない範囲でゆっくりと行う 麻痺が重い場合は、筋肉の緊張が低下し、関節が不安定となることがあります。特に肩の関節は不安定であるため、無理に動かすと痛めたり、脱臼したりする可能性があるため注意しましょう。
運動時は、呼吸を止めないようにし血圧の上昇に注意する 訓練時に、息を止めないよう注意しましょう。息を止めてしまうと血圧の上昇につながり、脳出血等の原因になることがあります。
正しいフォームで運動を行う 筋力トレーニングは正しいフォームで行うことで、効果が現れます。誤ったフォームで行うと、関節を痛めたり、訓練が生活動作に活かせなかったりすることがあるので注意しましょう。
負荷量が過剰にならないように調整する 負荷量が大きすぎると、疲労が残り生活に支障がでることがあります。また、過負荷な運動によって機能が低下する可能性もあります。翌日に疲労が残らない程度の負荷量に調整しましょう。
出血に注意する 脳梗塞後は、再発予防のために抗凝固剤という血栓を予防する薬を飲んでいることが多いです。薬の影響で、出血した際に血が止まりにくくなります。訓練時は、擦り傷などによる出血に注意してください。
血圧の低下に注意する 血圧が低下すると脳の血流が滞りやすくなり、再発リスクが高まります。普段と様子が違う場合は、看護師や医師に報告しましょう。

これらのリスク管理に注意を向け、利用者の安全を最優先に考え、サポートすることが大切です。

参考:脳血管障害におけるリスク管理

よくある疑問と解決策

よくある疑問と解決策について以下に解説します。

脳梗塞による麻痺の回復速度の個人差

脳梗塞後は、運動麻痺の回復に時間がかかることが多いでしょう。回復のスピードや程度は個人差が大きく、自分のペースでリハビリを続けることが大切です。リハビリの取り組みによっても、回復の見込みが大きく左右されます。

一般的に運動麻痺の回復は、発症後6ヵ月までと言われています。6ヵ月を過ぎても、緩やかな改善がみられることがありますが、回復の程度はこれまでより小さくなることが多いでしょう。あまり機能改善がみられず、一定の状態が続くことをプラトーと言います。

ただし、脳梗塞後は運動麻痺や感覚障害によって麻痺側の使用が減り、2次的に麻痺側の手足の筋力が低下するケースも少なくありません。このような場合は、6ヵ月を過ぎても麻痺側の手足を積極的に動かすことで、麻痺側の手足の機能改善がみられることがあります。

また、脳梗塞を発症してから4年後まで運動機能の改善がみられたケースもあり、いわゆるプラトーに達した時期であっても機能回復するケースは存在しています。

脳梗塞発症後の回復過程については、個人差が大きく、必ずしも予測できるものではありません。

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訓練の頻度や強度の増加による効果

効果的な訓練の頻度や期間については、利用者の身体特性や疾患の重症度などによって変わるため、一概に言い切ることはできません。

例として、以下に厚生労働省科学研究成果データベースにある脳卒中の急性期リハビリテーションの指針の一部を引用しますのでご参考ください。

  • 1日あたりに施行されるリハビリテーション訓練の時間を長くすることにより、機能回復予後が改善する可能性がある。
  • 1日あたりに施行されるリハビリテーション訓練の回数を多くすることにより、機能予後が改善する可能性がある。
  • 至適な強度は明らかではないが、訓練の強度を上げることで、機能予後が改善する可能性がある。

もう1例として、以下に脳卒中の維持期(生活期) リハビリテーションの効果に関するナラティブレビューで示されているデータを示しますのでご参考ください。

  • 麻痺側上肢を強制使用させる訓練は、従来の治療群に比べて有意にADLを向上させた。
  • 地域歩行訓練プログラムやサーキットトレー ニング、集団訓練、課題指向型訓練による歩行能力の向上が複数の RCT(ランダム化比較試験)で報告されている 。
  • 有酸素運動は麻痺側のみならず非麻痺側も下肢筋力が増強され、身体活動性の向上、QOL向上が得られたとの報告がある。

以上のように適切な訓練量については明確に示せない部分も多く、利用者の年齢や性別、疾患の重症度などを幅広く考慮した上で機能訓練の頻度を検討する必要があります。

医師や専門家の指導のもとで行うことが重要になるでしょう。

自宅で効果的に訓練を行う方法

脳梗塞の後遺症による麻痺や機能障害を改善するためには、自宅でも適切な訓練が重要です。しかし、どのように訓練を行えば良いか分からないという方も多いでしょう。以下に、自宅での訓練方法や専門家への相談について説明します。

まず、訓練方法は個々の症状や状態により異なります。たとえば、重度の麻痺がある場合、利き手を変更するための訓練が有効です。一方、軽度の麻痺であれば、麻痺側の手で細かな動作を行う訓練が推奨されます。また、バランス訓練についても、現在のバランス能力に応じて難易度を調整する必要があります。

自宅での訓練を効果的に行うためには、以下のポイントを考慮すると良いでしょう。

専門家への相談 理学療法士や作業療法士などの専門家に相談することで、自宅で行う訓練の具体的な方法や適切な強度を知ることができます。
適切な環境整備 訓練を行う環境を整えることも重要です。安全で集中できる環境を作ることで、訓練効果を高めることができます。
家族や介護者の協力 家族や介護者の協力を得ることで、訓練をより効果的に行うことができます。適切なサポートを受けながら、無理のない範囲で訓練を続けることが大切です。

自宅での訓練に不安を感じる場合は、遠慮なく専門家に相談しましょう。理学療法士や作業療法士は、訓練方法の指導だけでなく、モチベーションを維持するためのサポートにもなります。

参考:脳卒中治療ガイドライン2021におけるリハビリテーション領域の動向

医師の指示なしで理学療法士や作業療法士が、自費リハビリを行ってよいのか

自費リハビリ施設でのリハビリテーションに関しては、多くの方が疑問を抱く点です。理学療法士や作業療法士が医師の指示なしで自費リハビリを提供できるかについて、以下に解説します。

まず、理学療法士や作業療法士が提供するリハビリテーションは、本来医療行為として医師の指示のもとで行われることが前提となっています。医療機関で行うリハビリテーションについては、必ず医師の診断と指示が必要です。

しかし、近年増えている自費リハビリ施設においては、以下のような場合にリハビリが提供されることもあります。

自主的な運動指導 自費リハビリ施設では、医療行為に該当しない自主的な運動指導や生活支援の提供が行われることがあります。これらは医師の指示なしで提供されることもあります。
予防的なリハビリ 健康維持や予防を目的としたリハビリテーションも、自費リハビリ施設で提供されています。これには、生活習慣病の予防や健康増進のためのプログラムが含まれます。

ただし、以下の点に注意する必要があります。

専門的な診断や治療が必要な場合は医師の指示を受ける 症状の悪化や新たな問題が生じた場合は、速やかに医師の診断を受けることが重要です。
施設の選び方 自費リハビリ施設を利用する際は、施設の信頼性や提供されるプログラムの内容をよく確認しましょう。信頼できる専門家がいる施設を選ぶことが大切です。

医師の指示のもとで自費リハビリが行われるケースもあります。

自費リハビリ施設を利用する際には、これらの点に注意しつつ、安心して利用できる環境を整えましょう。

参考:令和元年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(公的保険外・医療周辺サービス実態調査)調査報告書

効果的な機能訓練を行うには、個別に訓練内容を設定することが重要

脳梗塞後遺症の症状は、利用者によりさまざまです。後遺症や身体能力を改善するには、現状把握と適切な目標の設定・機能訓練の継続が重要になります。

効果的な機能訓練を計画するにあたっては、理学療法士などのリハビリの専門家の助言を受けながら、その人に合った環境調整・訓練内容を実践すると行いやすいでしょう。

急性期〜回復期では自然と専門的な医療やリハビリ・機能訓練を受ける機会が多くなりますが、維持期ではそれぞれの判断に委ねられる部分があります。

維持期では、活動量が少なくなることにより、2次的に筋力や体力が低下してしまうケースが少なくありません。日常生活に機能訓練で習得したことを取り込み、適切に活動量を増やせるよう支援することが大切になります。

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この記事の著者

Rehab Cloud編集部   

記事内容については、理学療法士や作業療法士といった専門職や、デイサービスでの勤務経験がある管理職や機能訓練指導員など専門的な知識のあるメンバーが最終確認をして公開しております。

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