園芸療法のはじめ方|介護現場の園芸の効果と手順をご紹介

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更新日:2025/04/09

介護現場で行う「園芸」にはどのような効果があるか知っていますか?園芸療法は、植物を育てることによって心身共に良い状態を求めたり損なわれた機能を回復する効果が期待できます。今回は、デイサービスなど介護現場で活躍する園芸の効果や魅力、はじめ方をご紹介します。一年間を通して楽しめる園芸をぜひお試しください。

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園芸療法とは

園芸療法とは、ただ植物を育てたり、収穫したりすることではありません。

園芸療法では、植物を育てることによって身体や心、社会性に良い効果をもたらしたり、損なわれた機能を回復することを目的としています。

そのため、植物を育てることを楽しむだけでなく、スタッフの知識や関わり方も非常に重要になります。

もちろん、植物を育てると水やりや間引きなど手がかかります。しかし、手がかかることで愛着が湧くものです。手間がかかることを時間をかけて楽しむことが一つの「健康」であり、ご本人の生活の質(QOL)を高める活動ではないでしょうか。

園芸療法は、主に以下のような目的で活用されています。

  1. 生きがいづくり(収穫の楽しみ、将来を期待)
  2. 運動不足の解消、筋力低下の予防
  3. 外出機会の獲得
  4. 社会性の維持(仲間との会話)
  5. 生活能力の維持(販売、料理)

このように園芸を通じて、植物や土とふれあい、他者と触れ合います。心の問題で悩み苦しんでいた方が、植物を育てるという創造的かつ刺激的なプロセスを通して、ストレスや緊張感の緩和への対処方法などを学ぶことができるのです。

園芸療法は高齢者とスタッフ、そして利用者様同士を結びつけ、健康に、そして楽しく生活するための多くの手がかりを秘めていると言えます。


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介護現場で活躍する園芸療法とは

園芸療法は、発達・教育分野、学習障害分野、言語障害分野、身体障害分野、老年期分野などさまざまな場で活用されています。

家庭菜園や園芸は、定年後の趣味として始める方も多くいます。男性であれば盆栽、女性であればハーブや観葉植物を育てていたという方もいらっしゃいます。
ご利用者様の好みをお聞きして園芸を勧めてみてはいかがでしょうか?

外出機会や人と関わる機会が少なくなりやすい高齢者にとって、園芸療法は1つの楽しみとなってくれるかもしれませんよ。

園芸療法【7つの効果】とは

園芸療法の効果は、定期的に外に出て植物を育てることができるだけではなく以下の7つの効果が期待できます。


【園芸療法の効果】

  1. 感じる:食物の成長や気温といった自然の変化を身体で感じ取ることができる。
  2. 生きがい・やりがい:世話をした植物の成長や収穫を楽しむことができる。
  3. 役割り:水やりや間引きをするなどの役割活動ができる
  4. 見当識:植物の成長度合いや水やりの時間などを把握する機会ができる。
  5. 癒やし・落ち着き:植物を育てることで不安やうつ症状を和らげることができる。
  6. 社会性:主体的に声をかるなど会話が増える
  7. 日常生活:スコップなどの道具の使用や収穫した野菜で調理など日常生活動作をする機会ができる。

さらに園芸療法は、五感を刺激する効果がある!

さらに園芸療法には、植物を育て土や水、匂いなどを感じることで人間の五感が刺激され、気分を和らげてくれる効果も期待できます。

五感の刺激とは以下のものがあります。

  • 視覚:葉の色付き方や植物の成長を見て、四季の変化を目で感じ取る
  • 触覚:土の感触、水の冷たさ
  • 嗅覚:土の匂い、花の香、食物の風味
  • 聴覚:鳥のさえずりや虫の鳴き声、雨の音、参加者同士の会話
  • 味覚:収穫物の味

※最近のトピックスとして「マインドフルネス」という考え方があります。これも呼吸法や五感を通して、自分の身体や気持ちに気づくためのエクササイズとして取り組まれています。

参照:野田勝二 J. Japan Association on Odor Environment Vol. No. 239 「五感を刺激する園芸療法」(2016年11月26日アクセス)

コミュニケーションの活性化・認知症にも有用

園芸療法は、植物を育てるという活動を通じて、心身機能の維持や向上を図る介入方法の一つであり、介護現場でも注目されています。

特に高齢者にとっては、土に触れる、水をやる、収穫するなどの一連の作業が、五感や手先を使う良い刺激となり、脳の活性化につながります。そのため、認知症の予防や進行の緩和にも一定の効果があるとされています。

また、園芸を通じて自然と会話が生まれやすくなることから、利用者同士の交流やスタッフとのコミュニケーションが活発になり、社会性の維持や孤立感の軽減にもつながります。

さらに、植物の成長を見守る中で得られる達成感や癒しは、利用者の気持ちを安定させ、ストレスや不安の軽減にも寄与します。こうした点から、園芸療法は高齢者の生活の質(QOL)向上に有効なアプローチの一つといえます。

園芸療法で準備するもの・手順を理解しよう!

では早速、園芸をはじめるための手順を整理しておきましょう。

用意するもの

  • 鉢底ネット(プランターに穴が開いているタイプの場合)
  • 鉢底石
  • ネット袋(キッチンの排水口用のネットなど)
  • 培養土
  • 元肥(固形肥料など)
  • スコップ
  • 苗または種
  • ジョーロ

手順

  1. 土入れ
    プランターに穴が開いている場合は、鉢底ネットを敷いてください。鉢底石をネット袋に入れプランターの底が見えない程度に薄きます。次にいよいよプランターに培養土を入れます。必要であれば元肥(固形肥料など)を混ぜてください。
    ※ポイント
    清潔な培養土を使用して、極力素手で入れてもらいます。手のひらの感覚を呼び戻したり、五感を刺激するために、素手で用土に触れる事はとても大切です。
  2. 道具を使う
    土入れが終わったらスコップで土を慣らしていきます。次に、苗や種にあった穴を掘ります。穴の深さは苗や種によって異なりますので注意してください。
  3. 苗・種植え
    穴が掘れたら種植えです。苗の場合は、根をほぐさずに植えるのが基本です。苗に傷がつかないように素手で軽く土をかぶせます。上から軽く土を押さえてあげましょう。
  4. 水やり
    ジョーロを使用して水を満遍なくまいていきます。植物によっては少ない水の量でよい場合がありますので注意してください。
  5. 間引き
    種を植えた数日後には芽が多く生えてきます。栄養が分散されたり、根の生えにくさを防ぐため間引きをしていきます。2〜3つの芽が残る程度に間引きをしていきます。
  6. 収穫・採取
    野菜など収穫物がある場合は、手で収穫しましょう。花の場合も同様に採取してみましょう。
    ※ポイント
    茎から実を摂るときに指先の力(巧緻性)を高めてくれます。

大きく6つの手順がありますが、この手順の多さが大切ですよ!!
手間がかかることを時間をかけて楽しんで頂きましょう。

収穫した野菜やお花を使ったレク

園芸活動で育てた野菜やお花は、ただ眺めて楽しむだけでなく、さまざまなレクリエーションにも活用できます。利用者さんにとって「自分で育てたものを使う」という体験は、達成感や喜びを感じるきっかけとなり、より活動への意欲も高まります。

料理

用意するもの:包丁、まな板、鍋、野菜(園芸で育てたもの)、調味料など

収穫した野菜を使って簡単なスープやサラダを作るレクリエーションです。野菜を洗ったり皮をむいたりといった下ごしらえから調理までを一緒に行い、完成後にはみんなで試食します。自分で育てた野菜を味わうことで、達成感や食への関心が高まります。

押し花

用意するもの:押し花、厚紙、のり、透明フィルム、ハガキサイズの紙など

園芸で咲いた花を押し花にして、しおりやカードなどを作るレクリエーションです。色合いや配置を考えながら作品を作ることで、集中力や創造性が刺激されます。完成品はプレゼントや飾りとしても喜ばれます。

ハーバリウム作り

用意するもの:小瓶、ドライフラワー、専用オイル、ピンセットなど

収穫した花をドライフラワーにし、小瓶に詰めてオイルを注ぎ、インテリアとして楽しむ作品を作ります。花の色や配置を工夫する過程が楽しく、完成後は長く飾って楽しめるのも魅力です。

野菜スタンプ

用意するもの:切った野菜(ピーマン、レンコン、オクラなど)、絵の具、紙

野菜の断面を活かして、絵の具でスタンプ遊びを楽しむアートレクです。模様を押してハガキやうちわ、壁飾りを作るなど、自由に表現できます。色の組み合わせを考えることで視覚的にも楽しい活動になります。

リース作り

用意するもの:つるや針金の土台、花、木の実、リボン、グルーガンなど

園芸で採れた花や木の実を使って、季節を感じられるリースを作ります。自分の好みで材料を選んで飾り付けを行うことで、達成感が得られます。施設内の装飾にも活用できます。

カラーサンド寄せ植え

用意するもの:ガラス容器、カラーサンド、植物(多肉植物など)、スプーン

カラーサンドを層状に入れ、その上に植物を寄せ植えするレクリエーションです。色や形の組み合わせを考える工程が楽しく、完成した作品はそのまま飾って楽しめます。手入れがしやすい植物を選ぶと長く楽しめます。

利用者に合わせて園芸を始めてみよう!

園芸療法に初めてチャレンジする方は何からすれば良いか悩むことも多いのではないでしょうか。

そこでまずは、参加していただく「ご利用者様に合わせて」園芸療法をはじめる方法をご紹介します。

例えば、園芸の参加者の中には、車椅子や杖歩行の方もいらっしゃいます。
さまざまな身体レベルの方が参加するためには、台の上にプランターを接地して高さを調整しましょう。

車椅子の方でも、杖歩行の方でも楽しめる目標の高さは、約75〜80cmの「腰」の高さです!

ちなみにプランターの大きさや深さは、育てる植物に合ったサイズを選定する必要があります。

季節に合わせて園芸を始めてみよう!

春夏秋冬に開花する花をプランターに分けて園芸を始めてみることも方法の一つです。
どの時期に開花するのか、春夏秋冬に開花しやすい花を簡単にまとめてみましたので、ご参照ください。

春:アイスランドポピー、カレンデュラ、マーガレット、
夏:ランタナ、朝顔、ブルーデージー
秋:コスモス、ユリオプスデージー
冬:パンジー、クリスマスローズ

季節に合わせた植物を植えることで、外出機会が減る「秋」や「冬」にも園芸を行うことで年間を通した屋外活動が提案できますよ。
ただし、冬場は外が寒いので、なかなか活動としてやりにくさがある点はデメリットの一つでもありますね…

育てやすい品種から園芸を始めてみよう!

ガーデニング初心者に育てやすい品種をご紹介します。

その1つが「マーガレット」です。

マーガレットは、初夏から白い清楚な花がいっぱい咲く美しい花です。
白色以外にも赤や黄、ピンクなどの花色や花形の異なる品種があり、暖地では冬から花を楽しむことがでる育てやすい花です。また、夏も比較的涼しい地域では花を咲かせる姿を見ることができます。

比較的育てやすく、開花時期も長いマーガレットから始めてみるのはいかがですか。

植物の選び方の「豆知識」

その他にも植物の選び方には以下の方法もあります。

◯昔、育てていた植物や野菜など馴染みのあるものにする
◯誰もが知っている品種(ひまわりやコスモスなど)にする
◯花が大きく色鮮やかで濃い色の品種にする
◯香りを楽しむために香りの強い植物(ハーブ)にする
◯収穫後も楽しむために野菜(ミニトマト)や植物(ハーブ)にする

目的によって、選ぶ植物・野菜も異なります。

あなたはどんな目的で園芸活動を取り入れますか?

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この記事の著者

作業療法士  大屋 祐貴

作業療法士として、回復期リハビリテーション病院や救急病院、訪問リハビリに勤務し、医療・介護現場の幅広い分野を経験。現場のリハビリテーション技術を高めるために研修会の立ち上げ等を行う。

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