整容動作の機能訓練とリハビリ:訓練手順と目的・必要な機能とは
機能訓練
2024/11/06
機能訓練
口腔機能
更新日:2024/10/02
食事は「衣食住」という言葉が示すように、人間が生活していく上でなくてはならないもので、家族や友人との交流や楽しみの場としても重要な活動です。今回は、食事動作の改善・向上を目指した実践プログラムを事例を交えてご紹介します。
この記事の目次
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なぜ食事動作の機能訓練が重要なのでしょうか。
まず、食事は日常生活動作の中でも生命維持に必要な基本的な生活行為動作です。また、スプーンや箸などの食事道具の操作や食事環境への適応、食べ物に対する知識、食卓のマナーなど文化的なスキルも要求される重要な活動といえます。
スキルを求められるとはいえ、運動やリハビリをしたくないという訴えがある利用者においても、お腹がすくなどの欲求(生理的欲求)が高い「食事」においては、意欲的に取り組んでいただける活動といえるでしょう。
高齢者は年を重ねるにつれ、身体能力の低下や日常生活に制限を感じることも多くなっていきます。食事能力の低下は、個人の自尊心だけでなく、楽しみや外出の機会を減らすことにもつながります。
生活満足感にはADLの食事動作が強く影響しており、各因子の影響を考慮したとき、食事動作ができるほど生活満足感が高かった。食事を自力で摂る事ができるという喜びの他に家族、親戚や親しい友人等の生活を共有する人達との関わりを保持していく「場」として、介助されずに楽しみながら食事を摂れるということが、ひとつの社会活動として生活満足感に影響していた
引用:伊勢崎 美和「高齢患者のQOLとADL(日常生活動作)との関係―主観的幸福感に焦点をあてて―」
このことからも、ご高齢者にとって「好きな食べ物がいつまでも自分で食べられる」ということは、生活の質(QOL)を高めるために最も重要であるといえるのではないでしょうか。
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では早速、食事動作の獲得を目標とした機能訓練プログラムの事例をご紹介します。
【機能訓練の目標の例】
■本人の希望:娘と外食に行きたい
■長期目標:自宅での箸やスプーンを使用して食事ができる
■短期目標:両手を活用しながら正しい姿勢で食事摂取ができる など
計画書を作成する場合は、ご本人の主体的な希望やケアプランを確認した上で目標を立案しましょう。今回は例として記載していますが、目標やプログラム立案は、それぞれのケアプランや利用者への情報収集、評価を行なった上で設定してください。
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機能訓練の目標として「食事」を立案する場合は、摂食・嚥下や物品の使用、姿勢、食事の準備・片付け、文化的なスキルなど段階的に評価を行い、短期目標やプログラムを立案していきます。
上記の具体例の場合、どのような個別プログラムを立案できるでしょうか。以下にご紹介していきます。
【機能訓練の訓練内容】
食事を楽しむためには、大きく9つの工程が必要となります。この9つの工程は、利用者の能力に合わせて短期目標やプログラムの立案をする際に、参考にしていただきたいと思います。
※脳血管障害などによって利き手に重度の運動麻痺を呈した場合、利き手交換を余儀なくされた場合は、今回の訓練は対象外となりますので予めご了承ください。
ここからは、実践プログラムをご紹介していきましょう。
食べ物を認識するという行為は、食べるための準備期間として非常に重要になります。
人間の脳は、食べ物を認識することで、過去に食べたことのある食べ物と比較検討をし、その食べ方の判断や味の予測を行います。その予測と共に生理的な反応として唾液や消化器官の準備が始まります。
梅干しを見るとヨダレが大量に出るのはこのためです。
多発性脳梗塞を発症した場合、舌や嚥下機能が低下して誤嚥性肺炎などを合併することが懸念されます。そのためこの食べ物に対するイメージを持つことで、唾液や消化器官の生理的な反応を促すことができるので「食塊を形成し、食べ物を飲み込みやすくしたり」「口腔内の自浄作用」にも効果が期待できます。
【機能訓練のプログラム内容】
食べ物クイズ
【プログラムの手引き】
食べ物の認識はそのほとんどが視覚が占めており、その次に聴覚、嗅覚、触覚、味覚になります。そのため、絵カードなどを活用してクイズ形式でその食べ物がどのような色をしているのか?どれくらいの大きさか?匂いは?硬さは?味は?などの質問をしていくことで食べ物に対するイメージや認識力を鍛えていきます。
椅子に座った時に円背や右肩下がりの姿勢になってしまうという課題に対するプログラムです。
正しく椅子に座ることは、安定して食事を食べることができるだけでなく、スプーンや箸を使う腕も使いやすくなる効果が期待できるので「座位での体幹トレーニング」を2種類提案しました。
このエクササイズでは、つま先重心と腹筋群を意識して鍛えることで体幹の安定性を高める効果が期待できます。安定した座った姿勢を獲得するための5つのポイントとして、「足底が床に設置しているか」「つま先に体重が乗っているか」「骨盤が起きているか」「体幹が保持できるか」「顎が引けているか」を確認しておくことも良いでしょう。
また、食事時間内に体幹保持が難しい方には、背中やお尻の後面にタオルを置くことで身体が安定しやすくなります。身長が低い利用者に対しては、椅子の大きさや高さを変更することもおすすめです。
【機能訓練のプログラム内容】
椅子座位を安定させる体幹エクササイズ
【プログラムの手引き】
つま先に体重を乗せるように体を前方に倒し、踵上げを行うことで体が連動して正しい姿勢を保持しようとしてくれる効果が期待できます。また、骨盤が後方に倒れてしまうと猫背の姿勢となりやすいため前方方向に起こすイメージで運動を行うように指導しましょう。
親指や人差し指を使った細かな運動に課題がある場合のプログラムです。他人の目が気になる性格の場合は、箸やスプーンを持つような実践的な訓練をいきなり提案することはせず、まずは段階的に訓練を行なっていくのが良いでしょう。
ここで提案しているのは、「セラプラストを活用した手指の訓練」の2種類です。
【機能訓練のプログラム内容】
セラプラストを活用した手指のエクササイズ+把持訓練
【プログラムの手引き】
箸の使用は、主に親指と薬指は固定の役割として、人差し指と中指はつまむ役割として働きます。スプーンの使用では、親指から中指までの3指で挟む役割として働きます。そのため「親指で潰す訓練」と「3指で丸める訓練」に分けてエクササイズしていきましょう。
※重度の脳梗塞後遺症などの影響により箸やスプーンを握ることができない方に対しては、「万能カフ」や「太い柄スプーン」「自助箸」など自助具を使用するのもおすすめです。
【自助具】
セラプラストを活用した手指訓練の効果もあり、以前に比べて指先が動かしやすくなったと喜ぶ方に次のステップを提案します。次は、実際に箸を使用した訓練です。
このプログラムでは、セラプラストと箸を使用して挟む・切る・掴む動作を複合的に行います。箸の訓練の場合は、セラプラスト以外にも食べ物を想定したビー玉やおはじき、スポンジなどを準備することもおすすめです。
【機能訓練のプログラム内容】
セラプラストを活用した箸の訓練
【プログラムの手引き】
箸の機能は、食べ物を摘む、切る、挟む、刺すなど多岐にわたります。円滑な操作を行うためには高度な巧緻性が必要です。そのため箸の操作を、刺す>挟む>切る>掴むの順番で段階的に取り組んでいきましょう。
箸の訓練と並行して「スプーンの操作訓練」も実施していくと、外食したい、一緒に食事をとりたいといった具体的な目標を達成しやすくなります。
スプーンを使う場合は、食べ物をすくう、切る、混ぜるの3つの機能があることを説明し、この機能をスムーズに行なっていくためには手首の内側、外側に捻る動きが重要であると指導していきましょう。
軽度の感覚障害も残存している場合は、すくった食べ物をこぼさないようにするために、「目で見て確認」「手の感覚で確認」を繰り返し取り組んで、こぼさずに食べられる状態を目指します。
【機能訓練のプログラム内容】
スプーンの操作訓練
【プログラムの手引き】
スプーンを使用してピンポン球をすくい、落とさないように人から人または皿から皿に移していきます。
次に「箸・スプーンで口元まで運ぶ訓練」をご紹介します。
食べ物を口元まで運ぶ際は、関節可動域や筋力はもちろんのこと、肘・肩を協調的にコントロールする能力が必要になります。
また、箸や食べ物の重さを過去の記憶と照らし合わせて適切な力で持ち上げたり、実際に持った感覚を認識して協調的に口元まで運ぶなど非常に難しい課題です。
そのため、この訓練では「箸や食べ物の重さをイメージ」「肘の角度をイメージ」してもらうように指導し、スタッフが手を添えて誘導します。少しずつ介助する量を減らしていくように反復的な動作を繰り返し行うのがよいでしょう。
山﨑氏らによると“健常者に対して身体的ガイド法とフェイディング法を用いた箸操作訓練を実施した結果、言語指示とジェスチャーのみを用いて訓練した群よりも動作学習が良好であった”と報告しています。身体的ガイド法とは、対象者の身体部位に手を添えて動作を誘導する方法です。また、フェイディング法とは、手を添えた誘導を徐々に取り除いていく方法です。
引用:「身体的ガイドを用いた左手箸操作練習-箸操作技能と学習効果の関係-(山﨑 裕司)」(令和4年5月12日アクセス)
箸やスプーンの操作訓練をする場合は、この2つの方法を取り入れていくことをオススメします。
【機能訓練のプログラム内容】
口元までの操作訓練
【プログラムの手引き】
本人に「箸や食べ物の重さ」「肘の角度」をイメージしてもらいます。スタッフは手を添えて動作を誘導し、徐々に介助量を減らしていくように指導しましょう。
実際に箸やスプーンの操作ができるようになったら、外食で好きなものが食べられるように誤嚥を予防する「咀嚼訓練」を提案します。このプログラムは、咀嚼に必要な「頬」と「舌」のエクササイズです。
咀嚼は飲食物を噛み砕き、飲み込みやすい形状にするために重要です。しかし、入れ歯の噛み合わせが悪くなったり、口腔内外の筋力低下、だ液の分泌量の低下が進むことで飲み込みやすい塊を作ることが困難になります。
【機能訓練のプログラム内容】
咀嚼筋トレーニング
【期待する効果】
咀嚼に必要な舌と頬の筋力アップに効果が期待できます。
実は飲み込みがしにくい場合があるなど嚥下状態の訴えがある場合、嚥下障害をチェックする2つのテストを実施します。
【1】反復唾液嚥下テスト法(RSST)
30秒間に可能な空嚥下(唾液を飲む)をできるだけ多く行える回数を測定します。
[判定]
30秒間に2回未満の場合は嚥下障害が疑われます。
【2】改訂水飲みテスト(modified water swallow test : MWST)
3mlの冷水を飲み込み、嚥下反射誘発の有無やむせ、呼吸の変化を評価します。評点が4点以上の場合は、最大3回まで施行し、最も悪いものを評点します。
[判定]
1点 嚥下なし、むせまたは呼吸変化を伴う
2点 嚥下あり、呼吸変化を伴う
3点 嚥下あり、呼吸変化はないが、むせあるいは湿性嗄声を伴う
4点 嚥下あり、呼吸変化なし、むせ、湿性嗄声なし
5点 4点に加え、追加嚥下運動(空嚥下)が30秒以内に2回以上可能
不能 口から出す、無反応
飲み込みは、一般的に咽頭期・食道期といわれ食べ物が気管に入り込むのを防ぐような働きがありますが、その多くは、不随意運動(反射)のため直接的に訓練していくことが難しい項目です。その嚥下訓練をいくつかご紹介します。
【機能訓練のプログラム内容】
嚥下反射訓練
【期待する効果】
唾液を飲み込むように反復的な訓練を行うことで嚥下反射を促していきます。合わせて氷などの刺激物を舐めたりすることで嚥下反射を促すことができます。
【機能訓練のプログラム内容】
プッシング訓練
【期待する効果】
壁に向かって両手を押しながら「あっ」と発声することで声帯の機能を正常に戻す(声帯を閉める)効果が期待できます。
【機能訓練のプログラム内容】
メンデルゾーン手技
【期待する効果】
飲み込みの際に、喉仏が十分に上がらない方に対して、直接的に徒手で喉仏を挙上位で保持しながら飲み込みを行うことで喉頭の動きを学習する効果が期待できます。
【機能訓練のプログラム内容】
咳嗽訓練
【期待する効果】
万が一誤嚥した時にも咽られることを促します。腹部が膨らむことを意識しながら深く息を吸い「えっ」と声を出しながら息を吐き、咳きを促します。
最後に、実践プログラムとして「両手での食事動作訓練」を提案します。
日本では、食器を片手に持ちながら箸で食事をする習慣があります。そのため非利き手で食器を把持する訓練も行う必要があります。
あとは目標に合わせ、外食を希望する場合は場面を想定した様々な種類のコップやお皿で試してもらえる環境をセッティングするだけです。
【機能訓練のプログラム内容】
非利き手での食器の把持訓練
【プログラムの手引き】
コップを持つ動きは、親指を天井方向に向けた形に保持したまま、手指は筒を握ったような形をします。また、お茶碗を持つ手は、手のひらを天井に向けた形で手指は食器を包み込むように意識するように指導しましょう。
機能訓練メニューを事例を含めてご紹介しました。さまざまな病気や怪我を抱えているご高齢者に対して、安全で適切な訓練メニューを考えるのは一苦労です。機能訓練のメニューを検討する際は、ぜひこの記事をご活用ください。
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