入浴動作の機能訓練・リハビリ:訓練手順と目的・必要な機能とは

機能訓練

全身

更新日:2024/07/24

入浴は身体面、精神面、社会面での重要性が高い行為です。入浴動作のリハビリや機能訓練は、移動能力・バランス機能・立ち上がり動作などの多くの基本動作・応用動作能力を向上させることを目的としています。本記事では入浴動作の訓練方法や、日常生活への応用方法、福祉用具の使用法について解説します。

入浴動作とは

入浴動作とは、お風呂に入るために必要な一連の動作のことを指します。

入浴動作は「歩く」「立つ」「座る」のみでなく「体を洗う」「浴槽を跨ぐ」など複合的で応用的な動作が含まれます。基本的な日常生活動作のなかでも難易度が高い動作になるでしょう。

具体的な入浴動作の流れについて以下にまとめました。

1.脱衣所まで移動する 脱衣所まで移動します。
2.衣服を脱ぐ 脱衣所で衣服を脱ぎます。
3.浴室に入る 脱衣所から浴室内まで移動します。
4.体を洗う シャンプーやボディソープを使って全身を洗い、綺麗に流します。
5.浴槽に入る 跨ぎ動作を行い、浴槽に入ります。
6.浴槽につかる 浴槽に入り、浴槽内に座ります。
7.浴槽から立ち上がる 浴槽から立ち上がります。
8.浴槽からでる 跨ぎ動作を行い、浴槽を出ます。
9.浴室から脱衣所へ移動する 浴室から脱衣所まで移動します。
10.体を拭く 入浴後にタオルを使って体を拭きます。
11.衣服を着る 衣服を着ます。
12.髪を乾かす ドライヤーなどを使って髪を乾かします。

12の動作工程に加えて、利用者の身体状況や浴室と脱衣所の環境によって、動作方法が変わります。

手すりや車椅子などの一般的な福祉用具を活用することもあれば、バスボードなどの専門的な福祉用具を用いるケースもあるでしょう。

つまり、入浴動作は動作工程の多さや環境が影響して、個別性の高い支援が求められます。

これらの動作を安全かつスムーズに行うために、細かな評価を行い、適切な支援方法を考える必要があるでしょう。

参考:通所リハビリテーション入所者の入浴状況と心身機能とADLの関係

入浴動作の目的と重要性

入浴動作には、単に体を清潔に保つだけでなく、さまざまな重要な目的や意義があります。特に日本では、湯船につかる文化が根強く、各地の温泉を楽しむことも多いです。入浴は日本人にとって、生活の一部として欠かせないものとなっています。

入浴動作の目的と意義は以下の3つの視点に分けることができるでしょう。

  • 身体面
  • 精神面
  • 社会面

以下で、具体的に解説します。

身体面 身体の健康維持・向上に大きく貢献します。まず、体の清潔を保つことができ、皮膚のトラブルを防ぐことができます。また、温かいお湯に浸かることで血流が良くなり、新陳代謝が促進されます。これにより、疲労回復や筋肉のこわばりを和らげる効果が期待できるでしょう。さらに、適度な入浴は免疫力を高め、疾病予防にもつながります。医療の一環として、リハビリテーションや治療目的で入浴が用いられることもあります。
精神面 温かいお湯に浸かることで心身がリラックスし、ストレスが軽減されます。また、入浴は日常の楽しみの一つとして、多くの人にとって重要な休息や気分転換の時間になります。湯船に浸かることで新たな気持ちで一日を始める、または終えることができるきっかけになることでしょう。また、入浴によるリラックス効果により、痛みが和らぐこともあります。
社会面 社会生活においても重要な役割を果たします。まず、身だしなみを清潔にすることで他者に対する印象が良くなり、対人関係が円滑に進むことも考えられるでしょう。さらに、入浴施設や温泉などでは社交の場としての機能もあり、人々との交流が深まる機会となります。日常生活のリズムを整え、趣味として楽しむこともでき、生活全体の質を向上させる機会にもなるでしょう。

このように、入浴動作は身体、精神、社会の各面で多くの利点をもたらします。入浴の自立は、日常生活の質(QOL)を高める重要な要素となるでしょう。

上記のように、入浴によって得られるメリットは多く、人によって大切にする部分が異なります。そのため「一人で自由にお風呂に入りたい」という願望を持っている方は少なくないでしょう。

入浴を支援するスタッフは、これらの視点を理解し、利用者に適切なサポートを提供することが求められます。

入浴動作に必要な機能

入浴動作は「移動」「浴槽のまたぎ」「体や髪を洗うこと」「衣類の着脱」など、複合的な動作が含まれます。よって、基本的動作能力に加えて、応用動作能力が必要になります。

入浴動作においては、身体機能と認知機能のどちらも重要です。これらのさまざまな機能をかけ合わせて、応用的な動作能力を発揮する必要があるでしょう。

細かく身体機能と認知機能を要素に分けると以下のようになります。

身体機能 ・筋力、柔軟性、バランス、耐久力
認知機能 ・判断力、理解力、記憶力

以下で、各機能の概要について解説します。

【筋力】

入浴動作を行うには、動作に応じて身体の各部位を思い通りに動かすための筋力や立ち座り・またぎ動作時に足で踏ん張る力が必要です。入浴動作において重要な筋力を以下に示します。

上半身の筋力 肩や手の力のことを指します。具体的には以下のような動作で必要になるでしょう。

・着替えの時にボタンの留めはずしをする。
・ふらついた際に手すりを持ち、体を支える。
・髪や体を洗うために腕を持ち上げて、汚れをこする。

体幹の筋力 腹筋や背筋の力のことを指します。具体的には以下のような動作で必要になるでしょう。

・姿勢を保ちつつ、バランスを取りながら衣服を着脱したり髪や体を洗う。
・バランスを取りながら、またぎ動作を行う。

下半身の筋力 脚の力のことを指します。具体的には以下のような動作で必要になるでしょう。

・ズボンや下着を履くために起立したり、片足を持ち上げる。
・跨ぎ動作のときに片足で踏ん張る。浴槽から立ち上がる。

【柔軟性】

柔軟性は、身体がどれだけ大きく動くかを示す能力です。入浴動作には、主に以下の項目が重要になるでしょう。

肩や腕の柔軟性 体を洗ったり拭くために、腕を後ろに回したり、頭の上に持ち上げたりする際の肩関節や腕の動き。
指の柔軟性 衣類の袖を通したり、ボタンを留めたりする際の指の動き。
腰や股、膝の柔軟性 足先を洗うときに前かがみになったり、浴槽を跨ぐときに脚を持ち上げたり、浴槽にしゃがむときに膝を曲げたりする際の腰や膝などの動き。

【バランス】

バランスは、身体の安定性を保つ能力のことを指します。入浴動作において、主に以下の場面で重要になるでしょう。

  • 立ったまま洗体や更衣動作をする時
  • 座って洗体や更衣動作をする時
  • 腕を伸ばしたり、体をひねったりする時
  • 脚を上げて浴槽をまたぐ時
  • 浴室内を移動する時

【耐久力】

耐久力は、体が長時間にわたって活動を続ける能力のことを指します。具体的には、筋肉が持続的に収縮し続ける能力や、心肺機能が長時間の活動に耐える能力のことです。以下で概要を示します。

入浴動作を続けられる筋肉の耐久力 ・全身を洗ったり、着替えたりできる力を持続的に発揮できる耐久力。
・何度も立ち座りをしたり、歩いたり浴槽をまたいだりできる耐久力。
入浴動作を続けられる心肺の耐久力 ・ある程度の時間入浴をしても息苦しくならない耐久力。
・何度も立ち座りをしたりしても息苦しくならずに動作を続けられる耐久力。

【判断力】

判断力とは、情報を分析し、適切な結論や行動を選択する能力を指します。入浴動作には、主に以下の項目の判断力が必要になります。

自分がどのくらい動けるのか判断できる 自分の能力に合った動作方法を選ぶ力。
危険がないか判断できる 転倒しやすい環境など、危険を予測して行動する力。

【理解力】

理解力とは、情報や知識を正確に把握することです。入浴動作には、主に以下の項目の理解力が必要になるでしょう。

説明されたことが理解できる 障害の影響で、入浴動作方法の変更が必要なときに説明を受け理解する力。
入浴動作の手順などが理解できる 入浴動作の手順が理解できる力。

他にもシャワーの使い方などを理解する必要があります。

【記憶力】

記憶力とは、情報や知識を覚えておくことです。入浴動作には、主に以下の項目の記憶力が必要になるでしょう。

手順を理解し覚えておくことができる 入浴動作方法の手順を覚えておく力。
道具の操作方法を覚えておくことができる シャワーの操作方法などを覚えておく力。

また、入浴動作を行うためには、「(病前と違う)浴槽をまたぐ方法が覚えられるか」などの記憶力も重要になります。

参考:通所リハビリテーション入所者の入浴状況と心身機能とADLの関係

入浴動作に対する機能訓練の方法

入浴動作の機能訓練を行う際にどのような方法で行うのかについて、以下の3つの視点から解説します。

  • タイミング
  • シチュエーション
  • 訓練を行う人

以下で、詳しく説明します。

【入浴動作の機能訓練を行うタイミング】

入浴動作訓練を始めるタイミングは、利用者の状況やケガ、病気により異なります。一般的には、体調が安定した時点で、状況に合わせて訓練を始めることになるでしょう。

体調が安定しない時や入浴によるリスクが高い時期の訓練は避けるべきですが、なるべく早期のリハビリが重要になるとされています。

体調が安定し入浴動作の機能訓練が開始できる状況にある場合、以下のタイミングで訓練を行うことが考えられます。

1.利用者が新しく医療・介護サービスを使う時 新規利用者の場合、一般的に身体機能や動作能力を評価し、必要な介助量とリハビリの方針を確認します。必要性とリスクに応じて、入浴動作訓練が開始されます。
2.定期的に動作能力をチェックする時 定期的に利用者の身体機能をチェックしている場合、利用者の入浴動作が難しくなってきたタイミングで訓練開始を検討する場合があるでしょう。
3.利用者の身体機能が変化した時 病状悪化による身体機能低下、もしくは身体機能の改善などに合わせて、必要性に応じた入浴動作訓練の開始を検討します。

利用者の身体機能や健康状態などを定期的にチェックする機会があることで、必要性のあるタイミングで入浴動作の訓練が実施できます。

具体的な時期は、医師やリハビリ専門家と相談して決定するのが良いでしょう。

【入浴動作の機能訓練を行うシチュエーション】

入浴動作の機能訓練を行うのに相応しいシチュエーションは、主に以下の3つです。

安全でリラックスできる環境 利用者がリラックスできるように、静かで安心できる環境が相応しいです。また、実践的な入浴動作練習では床が濡れて滑りやすくなるため、落ち着いて安全面に注意できる環境が良いでしょう。
プライバシーが確保される場所 入浴はプライベートな行為であるため、カーテンやパーテーションなどを利用してプライバシーを守れる環境が相応しいです。
適切な温度と湿度の管理ができる場所 浴室内の温度や湿度を適切に保つことで、利用者が快適で安全に入浴できる環境であることが大切です。特に冬場は、ヒートショックを避けるため、脱衣所と浴室の温度差が大きくならないよう注意する必要があります。

参考:健康長寿ネット

【入浴動作訓練を行う人】

入浴動作訓練を行う職種は数多くあります。以下で、職種と役割を解説します。

介護福祉士 介護福祉士は、日常生活の支援を行う専門職であり、入浴介助や入浴動作訓練もその一部です。利用者の状態に合わせて適切な支援を提供します。

参考:介護職員の役割と職務

理学療法士 理学療法士は、運動機能の回復や維持を目的とした訓練を行う専門家です。入浴動作訓練では、利用者の体力や動作能力を評価し、最適な訓練方法を提案します。訓練計画の作成と実施を担当し、利用者が安全に入浴できるように運動療法を行います。
作業療法士 作業療法士は、日常生活動作の改善を目的とした訓練を行う専門家です。入浴動作もその一環であり、利用者が入浴できるように支援します。利用者の動作能力を評価し、入浴に必要な方法を練習することで効率の良い身体機能や動作能力の改善を図ります。また、適切な補助具の提案や使用方法の指導も行います。
看護師 看護師は、医療的な視点から利用者の健康状態を管理する専門家です。入浴動作訓練においても、利用者の体調を観察し、必要な医療的支援を提供します。主に健康状態のチェックや、入浴中の異常事態に対する迅速な対応を行います。
家族 自宅で入浴する場合、環境整備や入浴介助などに家族のサポートが欠かせません。家族は、利用者に対して手厚い支援が可能です。自宅で安心して入浴できるように専門家と連携し、適切な指導を受けながら訓練を行うこともできます。

【具体的な訓練方法について】

上記の基本的な事柄を踏まえた上で、訓練方法を検討すると良いでしょう。

入浴動作訓練の方法は数多く考えられますが、まず行えそうな機能訓練方法から、段階的に進めることが大切です。

利用者に合ったレベルの機能訓練から行い、徐々に難易度の高い訓練を行うようにしましょう。できる動作が増えたことを実感できるように訓練を進めると、利用者も前向きに訓練に取り組みやすくなります。

以下で入浴動作の機能訓練について、レベルに分けて解説します。一例ではありますが、ご参考ください。

参考:早期リハビリテーション

初級レベルの訓練

  1. 椅子に座って、タオルを両手で持ちます。
  2. 肘を曲げるようにタオルを顔へ持っていきます。肘や肩の痛みがないか確認しながら、無理のない範囲で行いましょう。「両手でタオルを持って顔を拭きましょう。」と声をかけてください。
  3. その後、元の位置まで戻します。一連の動作を繰り返します。

初級の訓練が難しい方は、椅子に座った状態で前後に腕を振ったり、肩を回すなど無理のない体操から始めるようにしましょう。

中級レベルの訓練

  1. 背もたれのない椅子に座り、体の後ろ側でタオルを持ちます。手首や肩に痛みがないか確認してください。声かけは「今から、背中を洗う練習をします。背中側でタオルを持ちましょう。」と伝えると分かりやすいでしょう。
  2. 右手でタオルを引き上げます。声かけは、「右手でタオルを上に引っ張りましょう。」と伝えるとよいでしょう。肩や手首に痛みがでないよう、無理のない範囲で行ってください。指示が伝わりにくい方には、見本を見せるとよいでしょう。
  3. ゆっくりと左手でタオルを引き下げます。声かけは、「今度は左手でタオルを下に引っ張りましょう。」と伝えるとよいでしょう。
  4. この動きを反復して行います。

左右を反対にして行うと、バランス良く全身を鍛えられます。身体状況に応じて検討すると良いでしょう。

上級レベルの訓練

  1. 固定された手すりと障害物を用意します。手すりをつかんで立ちます。
  2. 太ももを上げるように、脚を持ち上げます。「しっかり手すりを持って脚を持ち上げましょう。」と声かけをして伝えると良いでしょう。片足立ちになるため、転ばないように十分注意してください。支える方の、脚の力が弱い場合は膝がカクンと曲がり尻もちをついてしまうことがあります。支援者はいつでも支えられる場所で見守るようにしましょう。
  3. 障害物に当たらないように、またぎます。声かけは「障害物に当たらないように気を付けながら跨いでいきましょう。」と伝えるとよいでしょう。
  4. 反対側の脚も同じように跨ぎます。
  5. 元の位置に戻ります。

またぎ動作に慣れてきたら、障害物の高さを高くしたり幅を広くするなど難易度を調整すると、より効果的に行えます。

また、自宅の環境や身体の状況などに合わせて環境を設定し、実際の入浴動作を想定した上で訓練を行うと良いでしょう。

日常生活への応用

入浴動作訓練で練習したことを日常生活に取り入れることが大切です。ここでは、入浴動作訓練内容を日常生活に取り入れる方法について解説します。

入浴動作訓練内容を日常生活に取り入れるコツとして、以下のような内容が挙げられるでしょう。

毎日の習慣の一部として計画する 毎日の習慣に入浴動作訓練を組み入れます。入浴前の準備や浴後のケアなど、行えそうな部分から訓練を進めると良いでしょう。利用者のモチベーションや負担に注意して習慣化を検討しましょう。全ての時間帯で一連の動作訓練を行うことが負担になり、モチベーション低下につながる可能性があります。夜の洗体動作のみを機能訓練の一環として取り入れると決めるなど、負担にならない範囲で訓練を続けることが大切になるでしょう。
小さなステップから開始する 利用者の体力や能力に応じて、簡単な動作から始め、徐々に複雑な動作へと訓練を進めます。たとえば、浴室の椅子から立ち上がる動作の訓練から始めて、安定したら浴槽内で立ち上がる訓練を行うといった流れが考えられます。家族やスタッフの支援を受ける場合は、動作の自立度に合わせて徐々に支援を減らしていくと、無理なく実施できるでしょう。
適切な福祉用具を利用する デイサービス利用時は入浴できても、自宅では環境面から難しい場合が少なくありません。自宅での入浴を希望する場合は、適切な福祉用具を利用し安全に入浴できるように調整しましょう。以下は使用する福祉用具の一例です。

・滑り止めマット
・シャワーチェア
・昇降機
・浴槽台
・バスボード

利用者の身体状況や機能訓練の進行度に合わせて活用方法を検討しましょう。安全性を考慮して、福祉用具を選択することが大切です。

また、家族の支援も重要になります。体調や動作能力に応じて、家族と共に訓練を行うと励みになるでしょう。

日常生活での入浴動作を定期的に振り返り、機能改善を確認する機会も大切です。成功体験を積み重ねると、モチベーションを高められるでしょう。

効果的な訓練を行うためのポイント

入浴動作訓練を効果的に行うためには「筋力」「バランス能力」「判断力」など各種要素の複合した能力を的確に向上させた上で、実践的な動作練習が必要になります。

効果的な訓練を行うためには、2つのポイントが大切になります。

  • 効果的な訓練のコツ
  • 継続のためのモチベーション維持方法

以下で詳しく解説します。

効果的な訓練のコツ

効果的な訓練を行うためには、以下の7つのコツを抑えると良いでしょう。

  • 利用者の状態を的確に把握する
  • 安全第一を心がける
  • 段階的にアプローチする
  • コミュニケーションを大切にする
  • 継続して訓練を行う
  • 具体的な訓練方法を示す
  • フィードバックをする

それぞれの詳細を以下に解説します。

【利用者の状態を的確に把握する】

訓練前に「利用者の身体機能」「健康状態」「入浴に関する不安や希望」など、利用者の状態やニーズを確認します。その上で、リスクや目標の予想を立てましょう。

利用者の状態を把握しなければ、入浴訓練時に発生する可能性のある事故などを避けることが難しくなります。また、改善するべき機能の優先順位をつけることができません。

利用者の状態を的確に把握した上で、適切な訓練計画を立てることが重要です。

利用者の身体機能の把握が難しい場合は、理学療法士や作業療法士などの専門職に相談すると良いでしょう。

【安全第一を心がける】

実際の入浴を想定した場合、浴室はシャワーなどを使うことで濡れてしまいます。乾燥している他の屋内環境とは違い、滑りやすいため、環境を整備して転倒を防ぐ必要があります。以下の2つに注目して転倒予防を図ると良いでしょう。

環境の整備 必要に応じて福祉用具を使い、環境を整えましょう。たとえば、滑り止めマットを使用し、手すりやシャワーチェアを適切に配置することで転倒や転落を予防します。
見守り・介助支援 入浴動作中は利用者の近くにいて、必要に応じてサポートしましょう。入浴時は、溺水などの事故が起きる可能性があり、十分に見守りに注意する必要があります。

適切に環境を整え、利用者に合った見守りや介助支援をすることが大切です。

福祉用具は、滑り止めマットや手すり以外にも数多くの種類があるため、専門家に相談しつつ適切な環境を整えると良いでしょう。

安全が担保されないと、訓練に集中することが難しくなります。環境が要因で訓練を失敗を繰り返さないように注意しましょう。

【段階的なアプローチ】

訓練の難易度が高すぎると、挫折感が生まれてしまい、モチベーションが低下してしまう恐れがあります。効果的な訓練を行うためには、継続が欠かせません。以下の2つを意識して訓練を進めると良いでしょう。

小さなステップから始める 最初は簡単な動作から始め、徐々に難易度を上げるようにしましょう。入浴動作の工程を確認し、行えそうな動作から部分的に始めることが大切です。
成功体験を積む 利用者が自信を持てるように、成功体験を積み重ねましょう。できる動作が少しずつ増えるように支援するとモチベーションが向上しやすくなります。

入浴動作の工程を理解し、なるべく動作を分割して考えることが大切です。

たとえば「浴槽に入る」動作を訓練する場合、まずは「片足を浴槽より高く上げる」ことを目指すなどが考えられます。難しければ「手すりに掴まりながら足を上げてバランスを取る」ことから始めるのも良いでしょう。

このように、動作の工程を細かく確認して支援することが大切になります。

【 コミュニケーションを大切にする】

利用者と支援者の意思疎通ができていないと、利用者のニーズが把握できず、訓練がうまく進まない場合があります。

利用者の感想や希望を聞き、どのような入浴をしたいのかを把握することが大切です。

たとえば「自宅のお風呂に入りたい」と考えているケースもあれば「近所の温泉に入りたい」と考えているケースもあるでしょう。「清潔が保てれば良い」と思っている方もいるかもしれません。

利用者の希望やニーズによって、目標は大きく変わります。

コミュニケーションの中で、利用者は何を思い、目標にして訓練に取り組むのかを的確に把握しましょう。

【継続して訓練を行う】

継続的に訓練を行うことで効果が現れます。以下の2点を意識すると良いでしょう。

定期的に訓練を行う 定期的に訓練を継続することで効果が現れやすくなります。具体的には以下の頻度で訓練することが推奨されています。

・筋力、バランス、柔軟性など多要素な運動を週3回以上行うことを推奨する。
・週1回よりも週3回の運動を行った群に改善がみられた
・短時間かつ週1回の運動介入でも、低体力な高齢者に関しては運動効果が期待できる

利用者の状態に合わせて訓練を計画することが大切ですが、改善のためには定期的な運動を行うことが必要です。

記録をつける 訓練の進捗や利用者の状態を記録し、訓練の効果を把握して計画を立てましょう。
たとえば、以下のような項目を把握すると良いでしょう。

・関節可動域
・バランス能力
・行えた動作工程

その人に合った項目を継続的に記録することで、モチベーションの向上や機能訓練の方針の修正に役立てることができます。

【具体的な訓練方法を示す】

ここでは、入浴動作訓練の一例を挙げて「浴槽へ入る練習」の具体的な訓練方法の示し方について解説します。

浴槽に入る練習 手すりを利用して浴槽に入る練習 浴室内の手すりを使い、安全に浴槽に出入りする練習をします。最初は直接的に支援しながら、徐々に口頭での支援に切り替え、自力で行えるように促します。
利用者の状態に応じて、具体的に動作工程を示すことが大切です。
以下に一例を挙げるのでご参考ください。

1.右手で縦手すりを掴む
2.浴槽の縁まで身体を寄せる
3.左手で浴槽内の手すりを掴む
4.両手で支えながら左足を浴槽に入れる
5.浴槽内の手すりを両手で掴み、右足を浴槽に入れる
シャワーチェアを利用して浴槽に入る練習 立って浴槽をまたぐことが難しい場合は、シャワーチェアを利用する必要があります。
たとえば、片麻痺利用者の手順は以下のようになります。

1.シャワーチェアを、浴槽縁近くに設置し座る。
2.体の向きを浴槽と平行方向に変え、浴槽側の手すりに掴まり、1/4回転しながら健側の脚を浴槽内に入れる。
3.非麻痺側の手で麻痺側の脚を持ち上げながら浴槽に入れる。
4.前方の手すりにつかまって立ち上がり、一歩進み、再び向きを変えてからしゃがみ込む。

特に、動作に不安定さや不安感がある場合、細かな動作方法を示して安全な方法で練習することが大切になります。

利用者の身体機能はそれぞれ違うため、その人に合った入浴動作の方法を選択し、練習する必要があります。

参考:ADLとその周辺

【フィードバック】

訓練後に内容を振り返ることで改善点が見つかりやすくなり、訓練内容の調整ができます。具体的には、以下の2点が大切になります。

訓練内容の振り返り 訓練後に利用者と一緒に振り返りを行い、次回に向けた改善点を話し合います。
柔軟な対応 利用者の状態や反応に応じて、訓練方法を適宜調整します。

これらのポイントを心がけることで、より効果的に入浴動作の訓練を行うことができます。安全かつ安心できる環境や動作方法を提供し、利用者の自立を適切にサポートできるように支援しましょう。

継続のためのモチベーション維持方法

入浴動作訓練を継続するためのモチベーション維持方法について、以下の2つの視点から解説します。

  • 高齢者がモチベーションを落としやすくなる理由
  • 訓練を続けるための工夫やサポート方法

以下で詳しく解説します。

【高齢者がモチベーションを落としやすくなる理由】

高齢者がリハビリのモチベーションを低下させやすい理由には、いくつかの要因が考えられます。

1. 身体的な制約 疲労や痛み 高齢者は若い人よりも疲れやすく、痛みを感じやすいことがあります。強い痛みや疲労を伴う訓練をする場合、意欲が低下しやすくなるでしょう。
体力の低下 筋力や持久力が低下していると、運動そのものが難しく感じられ、意欲が低下することがあります。
2. 心理的な要因 不安やうつ 病気や怪我の後、将来への不安によってうつ状態に陥りやすく、訓練への意欲を低下させる要因になります。
自己効力感の低下 成功体験が得られないと「自分にはできない」という気持ちが強くなり、モチベーションが下がりやすくなります。
3. 社会的な要因 孤独感 家族や友人からのサポートが不足している場合、孤独感を感じやすくなり、訓練への意欲を低下させる要因になります。
サポートの不足 適切なサポートがないと、訓練の進行が難しくなり、挫折感から意欲低下が生じやすくなります。
4. 環境的な要因 リハビリ施設の環境 施設の環境が快適でなかったり、スタッフとのコミュニケーションがうまくいかなかったりする場合、意欲が低下することがあります。
生活環境の変化 病院やリハビリ施設にいること自体がストレスとなり、訓練への意欲が下がることがあります。

これらの要因を理解し、高齢者のモチベーションの低下を防ぐことが大切です。

参考:American College of Sports Medicine position stand. Exercise and physical activity for older adults Motivators for treadmill exercise after stroke. 

【訓練を続けるための工夫やサポート方法】

入浴動作訓練を続けるための工夫やサポート方法について、以下の9項目が要素として挙げられます。

1.個別目標を設定する 高齢者の体力や状況に合わせた目標を設定します。たとえば「6ヵ月で自立して浴槽に入ることを目指す」などの目標を立てます。現実的で達成可能な目標を設定することで、達成感を感じやすくなります。
利用者の状態によっては、自立を目指すことが難しかったり、改善できる部分が限られたりするケースもあるでしょう。
しかし、どのような状況であっても、動作工程を細かく考え、目標達成できる部分を考えることが大切です。スタッフの支援や福祉用具の活用を含めた目標設定をすることも視野に入れましょう。たとえば
2.モチベーションの上がる環境を整える 利用者が快適で安全だと感じられる環境を設定できると、モチベーションが上がり、自発的な行動を促しやすくなります。訓練しやすい環境が整っておらず、無理のある状況で訓練を繰り返してしまうと、挫折感を継続的に感じてしまいモチベーションが低下してしまいます。利用者が安心して訓練でき、挑戦しやすい環境を整えることが大切です。
3.小さな成功の積み重ねて、喜びを共有する 適切な目標設定を行い、目標達成という小さな成功体験を積み重ねることで、モチベーションが維持・向上しやすくなるでしょう。その上で、目標を達成できたという喜びを家族やスタッフと分かち合うことで、より前向きに訓練に向き合えるようになるでしょう。
4.楽しく訓練を行えるようにする 「好きな音楽をかけながら入浴の動作訓練をする」「好きな入浴剤を使用する」など、楽しい・心地よいと感じられる状況で活動すると、継続しやすくなります。利用者によって楽しみは異なるため、本人が楽しいと思える取り組みを行いましょう。
5.家族や友人のサポートを得る 「入浴練習の時間に家族が一緒に過ごす」「励ましの言葉をかける」など、社会的なつながりがリハビリの意欲を高めます。「家族に迷惑をかけずに、なるべく自力でお風呂に入りたい」という思いが意欲につながるケースもあるでしょう。人とのつながりが、モチベーション低下を予防し、継続的な訓練を促すきっかけになります。
6.自然な流れでリハビリを取り入れる 洗面台での洗顔や歯磨きをきっかけにして、入浴動作を練習するなど、自然な生活習慣の中で訓練を取り入れられると良いでしょう。自然な形でリハビリを行うことで、精神的な負担感が軽減され、訓練に取り組みやすくなるでしょう。
7.リハビリの進捗を記録する 日記やカレンダーに入浴動作訓練の内容や進捗を記録するのも良いでしょう。視覚的に訓練の成果を確認することで、モチベーションが維持されやすくなります。負担になるほど細かな内容を記載する必要はありません。継続できる範囲で、モチベーションが持続するように取り組みましょう。
8.専門家のサポートを受ける 理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職の指導の中で、適切な訓練計画や環境設定のアドバイスを受けられます。
訓練を続けるためには、モチベーションを保ち続けることが大切です。そのために、適切な機能訓練計画や環境設定が必要になるでしょう。
適切な目標や環境の設定が難しいのであれば、専門職のサポートを受けることを検討しましょう。
9.スタッフが積極的に関与する スタッフや家族から、励ましを受けるとモチベーションを保ちやすくなります。積極的に利用者に関わることで、前向きにリハビリに取り組みやすくなるでしょう。

これらの方法を取り入れることで、高齢者が入浴動作訓練を継続しやすくなり、効果的な訓練をサポートできるでしょう。

 参考: 作業療法士Q&A

入浴動作の機能訓練の注意点

入浴は利用者にとってリラックスできる時間であり、清潔を保つために必要不可欠な活動ですが、事故が起こりやすい環境にあります。

リスク管理を徹底することで、利用者の安全を確保し、安心して入浴動作訓練を行う必要があるでしょう。

以下に、入浴動作訓練を行う際の注意点を解説します。

主要なリスクと対応策

お湯につかると血管が拡張し、血圧が低下し「めまい」がしたり「気を失ってしまう」場合があります。特に「安静にしている期間が長かった利用者が入浴を再開する場合」や「降圧剤を増量した場合」に起こりやすいです。

利用者の体調によって「介助量を増やし、負担を減らす」など臨機応変な対応が必要になることもあるでしょう。

入浴動作訓練の主要なリスクは以下の3つです。

  • 転倒
  • ヒートショック
  • 溺水

以下で、細かく解説します。

【転倒】

浴室や脱衣所は濡れやすく、滑りやすい環境になるため、転倒の危険性が高いです。特に高齢者はバランスを崩しやすいため注意が必要です。

具体的な対応策として以下のような項目が挙げられるでしょう。

  • 滑り止めマットを設置する
  • 床の水滴を拭き取る
  • 入浴前に利用者の身体機能を確認する

滑り止めマットのような福祉用具は、多くの種類があるため、利用者に合うものを選択しましょう。適切な環境設定が転倒を予防します。

また、利用者の身体機能を把握せずに訓練を行なう場合は危険です。特に、滑りやすい環境の中では、滑りにくい環境に比べて動作パフォーマンスが低下する恐れがあります。

浴室や脱衣所での転倒を予想した評価を行いましょう。

【ヒートショック】

ヒートショックは、急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、心臓や血管に大きな負担がかかる現象です。高齢者や持病を持つ方にとって危険であり、場合によっては命に関わることもあります。

持病のない健康な方にもヒートショックは起こる可能性があるため注意しましょう。

具体的な対応策として以下のような項目が挙げられるでしょう。

  • 脱衣所と浴室の温度を調整し、温度差を小さくする
  • 浴槽の温度を41℃以下に設定する
  • 利用者の体調を常に確認し、異変があればすぐに対応できる体制を整える

また、健常高齢者において、41℃の入浴では心肺機能に負荷を及ぼす可能性があるとされています。高齢者は潜在的に心肺機能の低下を合併していることも多く、高い湯温の入浴は事故に至る可能性があるため注意しましょう。

さらに、入浴時は脱水症のリスクが高まります。入浴前後の水分補給を心がけましょう。

参考:入浴中の循環動態の変化に関する基礎研究ー高齢者を対象にー

【溺水】

入浴時は、浴槽で溺れる危険性があります。高齢者や身体に不自由のある方は、特に注意が必要です。

具体的な対応策として以下のような項目が挙げられるでしょう。

  • 利用者の入浴姿勢を安定させる
  • 浴槽の深さを調整し、肩まで浸かる程度にする
  • 実施前の準備をする

入浴動作訓練前の事前準備のポイントを以下の通りです。

健康チェック 利用者の健康状態を確認し、入浴が適切か判断します。
設備確認 浴室や脱衣所の設備が安全であることを確認します。
緊急対応準備 緊急時の対応マニュアルを確認し、必要な連絡先を把握しましょう。

健康チェックでは以下の「アンダーソンの運動中止基準(土肥変法)」を参考にするとよいでしょう。

Ⅰ.運動を行わないほうがよい場合 ・安静時脈拍数:120/分以上
・拡張期血圧(下の血圧):120mmHg以上
・収縮期血圧(上の血圧):200mmHg以上
・労作性狭心症を現在有するもの
・新鮮心筋梗塞1ヶ月以内のもの
・うっ血性心不全の所見の著しい不整脈
・心房細動以外の著しい不整脈運動前すでに動悸、息切れのあるもの
Ⅱ.途中で運動を中止する場合 ・運動中、中等度の呼吸困難・めまい・嘔気・狭心痛などが出現した場合
・運動中、脈拍が140/分を超えた場合
・運動中、1分間に10個以上の期外収縮が出現するか、または頻脈性不整脈(心房細動、上室性頻脈など)あるいは徐脈が出現した場合
・運動中、収縮期血圧40mmHg以上または拡張期血圧20mmHg以上上昇した場合
Ⅲ.次の場合は運動を一時中止し、回復を待って再開する ・脈拍数が運動時の30%を超えた場合。ただし、2分間の安静で10%以下に戻らない場合は中止にするかかなり負荷の少ない運動に切り替える。
・脈拍数が120/分を超えた場合1分間に10回以下の期外収縮が出現した場合
・軽い動悸、息切れを訴えた場合

また、高齢者においては160/100mmHg以上の高血圧及び37.5℃以上の発熱時に入浴事故のリスクが高まるとされています。

上記の情報のみでなく、医師が利用者の入浴中止基準を定めているケースもあるため、確認しておく必要があるでしょう。

これらのリスク管理を理解し、利用者の安全を最優先に考え、サポートしていきましょう。

よくある疑問と解決策

よくある疑問として、以下の3つが挙げられます。

  • 片麻痺利用者の入浴動作について
  • またぎ動作に必要な要素について
  • 適切な福祉用具の使用について

以下にQ&A形式で解説するので、ご参考ください。

片麻痺利用者の入浴動作について

Q:片麻痺利用者が自分で体を洗うためにはどのようにすれば良いか。 A:麻痺によって片手が不自由な場合は、以下の道具を利用すると良いでしょう。

・長柄付きブラシ
・ループ付きタオル
・ループ状タオル

以下にそれぞれの特徴を解説します。

【長柄付きブラシ】
その名の通り、長柄が付いたブラシです。一般的なブラシよりも遠くの部位を洗うことができます。

【ループ付きタオル】
ループ付きタオルは、ループ部分を麻痺側の指や腕にはめて使用できるタオルです。麻痺側の腕にある程度力が入り、ループ部分が麻痺側から外れないようにできる方の場合、活用しやすいでしょう。一般的なタオルでは洗えない部分を洗いやすくなります。全く力が入らなかったり、痛みがある場合は活用しにくい用具になります。

【ループ状タオル】
ループ状タオルは、2枚のタオルの端と端を縫い合わせて作られています。これをタスキのように体にかけ、健側手で絞り込むようにして持ち、動かすことで背中を洗うことができるでしょう。麻痺側の手が不自由な場合は、椅子に座った姿勢で健側の太ももにタオルを巻き、上体を前後に動かして健側の腕を洗うこともできます。

参考:ADLとその周辺

Q:浴室内を移動するときに麻痺側の足に力が入り、滑ってしまう場合はどうしたらよいか。 A:麻痺の影響で麻痺側の足に力が入り浴室内の移動が危険な場合は、滑り止めのついたプラスチック製の短下肢装具などを付けると転倒予防につながります。
しかし、装具を付ける手間が大きく、濡れてしまうため、主に入浴用の装具が用意できる場合に検討すると良いでしょう。代替案として、滑り止めマットの使用が挙げられます。
浴室内の移動は「麻痺側の足を持ち上げすぎず引きずりながら移動する」など、裸足で安全に移動できるよう訓練する方法もあります。
また、浴室内の不安定になりやすい環境により、普段よりも体に力が入ってしまうケースもあるでしょう。その場合、安心できる環境を整えて、動作のサポートを行いながら恐怖感を取り除くことが大切になります。

参考:ADLとその周辺

Q:浴槽へ入るときのまたぎ動作はどちらの足から行うとよいか。 A:非麻痺側の足から入るのが原則です。浴槽に張られたお湯の温度が確かめられ火傷を防ぎやすく、浴槽内で足の踏ん張りが効くため、麻痺の無い足から入るようにしましょう。
また、浴槽から出る場合も同様に、なるべく健側の足から出ると安全です。しかし、入る時とは反対向きで出ることになり、手すりも浴槽の両脇につけるなどの対応が必要になる場合があります。

参考:とうきょう福祉ナビゲーション

またぎ動作に必要な要素について

「立ってまたぐ場合」と「座ってまたぐ場合」に分けて、以下で説明します。

Q:立ってまたぐ場合に必要な要素は? A:立ってまたぐ場合に必要な要素は、主に以下の3つです。
安定して立っていられる片足で体重が支えられる脚を持ち上げられる
身体機能では「膝が曲がる角度」「立っているときのバランス能力」が関わるとされています。

参考:要介護高齢者の模擬的浴槽またぎ動作能力と身体機能の関係

Q:座ってまたぐ場合に必要な要素は? A:座ってまたぐ場合に必要な要素は、主に以下の3つです。
安定して座っていられる座っているときに左右に体重移動ができる脚を持ち上げられる
座って脚を持ち上げる前の準備段階として、持ち上げる脚とは反対のお尻に体重を移動させる必要があります。お腹や背中・脚の筋力が不足していると、座っていること自体が不安定となり、またぎ動作が難しくなります。
脚が十分持ち上がらない場合は、上体を後ろに傾けることで、またぎ動作が行いやすくなりますが、後方への転落に注意する必要があるでしょう。

参考:お風呂動作について考える

適切な福祉用具の使用について

Q:またぎ動作をする際に活用できる便利な福祉用具について教えてください。 A:またぎ動作をする際に活用できる便利な福祉用具には、以下のような物があります。

・バスグリップ
・浴槽台
・バスボード

【バスグリップ】
浴槽用手すりは、浴槽の手前に手すりを設けたい場合などに使用する手すりであり、万力状に浴槽の縁をはさんで固定する構造になっています。浴槽用の手すりは、浴槽の縁が広すぎたり、強く締め付けるとへこむ材質の場合には、取り付けることができません。また、取り付けできても不安定で危険な場合もあるでしょう。浴槽との適合を十分に確認してからの購入が必要です。

【浴槽台】
浴槽が深すぎる場合、浴槽内に浴槽台を置き、またいで出入りしやすくします。また、浴槽からの立ち上がりが困難な場合に浴槽台に腰かけて入浴すると、立ち上がりやすくなるでしょう。注意点として、「使用する浴槽の内部の幅や形状が合わない」「入らない場合がある」「肩までお湯に浸かれない」ことが挙げられます。事前に浴槽の内寸を確認することが必要です。

【バスボード】
バスボードは、板の片側を浴槽の縁に掛け、反対側の脚を洗い場に立てて固定するものです。浴槽の縁にかけた板の部分に腰を下ろすことで、座った状態のまま浴槽への出入りを行うことができます。
浴槽の縁の幅、浴槽の材質から問題なく固定できるかどうかといった事前の確認が必要になります。

Q:体を洗うときに座るシャワーチェアの選び方が知りたい。 A:シャワーチェアを活用する際には、背もたれの有無、座面の形状・材質などを選択する必要があります。また、座面の中央部に窪みを設けてあるものや形を便座状にして陰部が洗いやすいようにした製品もあるため、適切な用品を選択しましょう。
どういった種類の入浴補助用具がふさわしいかは、浴室の構造、浴槽の構造、入浴の方法、本人の希望によって異なります。
たとえば、利用者の座位の安定性が低い場合は背もたれのあるシャワーチェアを選択した方が良いでしょう。また、座面の高さも重要なポイントです。座面が低いと立ち上がる時に筋力を必要とします。材質については、皮膚が触れる製品であり、利用者の感覚と汚れの落としやすさとの双方の兼ね合いで選択すると良いでしょう。
シャワーチェアの座面と、浴槽の縁の高さを合わせることができれば、バスボードの代わりに使うこともできます。
Q:シャワーキャリーはどういうときに必要ですか。 A:シャワーキャリーは、シャワーチェアに車輪が付いたものです。浴室と脱衣場の段差が無い場合、座った状態で浴室まで入ることができます。歩くのが難しい場合など、浴室への移動負担が大きい場合に使用します。
Q:シャワーキャリーを使用したいのですが、浴室と脱衣所に段差があり難しいです。解決方法はありますか。 A:浴室内すのこ等を使用し、脱衣場と浴室の段差を無くすと良いでしょう。すのこを洗い場の床に据え置くことにより、浴室への出入りを容易にすることができます。

適切に環境を整えて入浴訓練のモチベーションを保つことが大切

入浴動作は、複合的な要素が必要になる難易度の高い動作です。入浴動作の自立を目指すためには、リスク管理をした上で、利用者に必要な能力や環境調整を見極める必要があります。

リハビリの専門家のアドバイスを受けながら、利用者一人ひとりに合った入浴動作訓練を行うことが大切になるでしょう。

また、入浴動作は清潔を保つだけでなく、心身を和らげる機会になることもあり、精神面に与える影響も大きいです。入浴は、肌を露出したり、楽しみ方も人それぞれであることから「1人で入浴したい」という希望を持つ利用者も少なくありません。

利用者とのコミュニケーションの中でニーズを適切に把握し、モチベーションを保って訓練に取り組めるように意識して入浴動作訓練に取り組むと良いでしょう。

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この記事の著者

Rehab Cloud編集部   

記事内容については、理学療法士や作業療法士といった専門職や、デイサービスでの勤務経験がある管理職や機能訓練指導員など専門的な知識のあるメンバーが最終確認をして公開しております。

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