腸腰筋のトレーニング特集|ご高齢者に最適な運動方法 11選

機能訓練

下肢

更新日:2024/10/10

腸腰筋は、姿勢保持や歩行動作に大きく関与する筋肉です。付着部は身体の重心位置を覆うように存在し、体幹と下肢をつなぐ特殊な筋とも言えます。腸腰筋は、ご高齢者の介護予防や転倒予防には欠かせない部位でバランス能力の向上に関してのエビデンスレベルも高いです。そこで本稿では、「仰向け姿勢」と「座位姿勢」で取り組める腸腰筋のトレーニング方法をご紹介します。 

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腸腰筋とは

ご高齢者にオススメの腸腰筋のトレーニングをご紹介する前に、腸腰筋の機能や役割について解説します。

腸腰筋は、腰から太ももの付け根にかけ、左右対称に付着しています。

一般的には、太もも挙げや脚を持ち上げる時に使う筋肉とされており、座っている姿勢が長いご高齢者の場合は、腸腰筋が縮こまって固くなるため、腰痛の原因になる可能性が高くなります。そのため腸腰筋をターゲットマッスルとしてトレーニングして行くことが大切になります。

腸腰筋は、大腰筋(だいようきん)と小腰筋(しょうようきん)、腸骨筋(ちょうこつきん)の3つ筋肉から構成される筋肉の総称です。大腰筋・小腰筋・腸骨筋の役割についてそれぞれ簡単に説明します。

  • 大腰筋
    主な役割は、股関節(骨盤と股関節)を安定させる、歩く際に脚を挙げる(股関節屈曲)働きをします。大腰筋の起始部は胸椎(T12)から腰椎(L1~5)の横突起で、大腿骨の小転子に停止します。
  • 小腰筋
    小腰筋は、大腰筋からの分束で、約半数以下の人にしか存在しないとされる筋肉です。小腰筋の起始部は、胸椎(T12)から腰椎(L1)の椎間円板で腸恥隆起に停止します。
    小腰筋は大腰筋の中に埋もれて、その働きは大腰筋の補助の働きをします。今回は大腰筋に含まれるものとしてご紹介します。
  • 腸骨筋
    大腰筋と異なり、背骨(脊椎)に付着していない為、純粋に足を挙げる(股関節屈曲)働きをします。腸腰筋の中でも最も深層部に付着する筋肉です。大腰筋の起始部は、腸骨窩で大腿骨の小転子に停止します。
    歩く際は、太ももをやや外側に捻る(外旋)働きをするため下肢を振り出す際に、関与する筋肉であると言われています。

参照:RELATIONSHIP BETWEEN REDUCTION OF HIP JOINT AND THIGH MUSCLE AND WALKING ABILITY IN ELDERLY PEOPLE (平成28年12月2日アクセス)

運動初心者から上級者まで取り組める難易度別の腸腰筋ストレッチについて知りたい方は、ぜひこちらの記事をご一読ください。
▶︎腸腰筋ストレッチの4つの効果と難易度別の10種の運動方法をご紹介

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腸腰筋トレーニングの効果とは

一般的に腸腰筋を鍛えることで、効率よく、速く走れるようになると言われており、陸上選手のトレーニングとして注目されています。

ではなぜ効率よく走れるのでしょうか?腸腰筋の2つの効果をご紹介します。

  1. 身体の軸を安定させる効果がある
    体幹の安定性に寄与しています。軸が安定すると運動の際に、身体のブレが減り、脚が踏ん張りやすくなるためフォームが安定します。
  2. ストライドが広くなる効果がある
    床からの反力を使って蹴ることで前方に進む力(推進力)に関連すると言われています。脚が蹴り出しやすくなりストライドが広くなります。


近年の研究では陸上以外にも、サッカーやバスケットボールなどの瞬発的に走る競技において「腸腰筋」が発達している傾向あるということがわかっています。そのため、走る要素の含まれるスポーツ選手は、最大限能力を発揮するために腸腰筋のトレーニングは重要になってきます

参照:浜松ホトニクス株式会社スポーツホトニクス研究所「高校生スポーツ選手の競技種目別の大腰筋断面積」(平成28年7月25日アクセス)

なぜ腸腰筋トレーニングは高齢者に重要なのか?

position

人の理想とされる基本的な立位姿勢には「ニュートラルポジション」という姿勢があります。このニュートラルポジションは、もっとも効率的に身体を支えることができる姿勢です。

ご高齢者の場合は円背などの影響により上半身が前方に倒れていることが多く、重心線は大転子のやや前方を通ります。そのため「腸腰筋」が働きにくくなり筋肉が弱くなってしまう原因の1つとなっています。

また、腸腰筋が弱くなってしまうと、アゴを突き出して背中が丸まった猫背の姿勢「スウェイバック」や背骨がまっすぐになってしまう姿勢「フラットバック」を引き起こし、椎間板の負担を増大させてしまう可能性も高くなります。

さらに、腸腰筋は上半身と下半身を繋ぎ、姿勢を保つ役割があり、歩行時の降り出しにも大きく関与しています。そのため、腸腰筋が弱化していると股関節や骨盤帯が不安になってしまう可能性もあります。

このようなことからご高齢者において「腸腰筋」を鍛えておくことが非常に重要になります!
 

簡単な腸腰筋のトレーニングからはじめよう!


それではご高齢者におすすめな腸腰筋トレーニングをご紹介していきます。

こちらの運動は、片足で反対足の膝とかかとを交互に触れる腸腰筋のトレーニングです。比較的難易度が低いためご高齢者にも導入しやすい運動メニューになります。仰向けで行うトレーニングは膝への負担が少なく、変形性膝関節症の方のトレーニングとしても活用できるのではないでしょうか。まずは、こちらのエクササイズから始めてみましょう!

【回数】
左右の足を10回ずつを目安に行いましょう。

参照:ヒト腸腰筋 (大腰筋, 腸骨筋) の筋線維構成について (平成29年5月31日アクセス)

腸腰筋トレーニング|仰向け×片足上げ運動


こちらの運動は、片足上げの腸腰筋のトレーニングです。

ご高齢者の中には足の運動をすると腰に痛みがある方も多いのではないでしょうか?こちらの運動は膝を曲げることで腰部の負荷を抑えてトレーニングすることができます。足がすくんで歩きにくいご高齢者の方の導入編として取り組んでいただきたいトレーニングです。
膝をお腹につけるように動かしていきましょう。

【回数】
左右の足を交互に20回を目安に行いましょう。

腸腰筋トレーニング|仰向け×円を描く運動


こちらの運動は、足で円を描くことで腸腰筋や腹筋をトレーニングすることができます。

体幹と股関節の安定性を高めることができます。できる限り大きく足を動かしましょう。ご高齢者にとっては腰への負担も大きくなる運動ですので、腰痛や疲労に十分に注意しておこないましょう。

【回数】
左右の足を5回ずつを目安に行いましょう。

腸腰筋トレーニング|仰向け×腹筋運動


こちらの運動は、クロスクランチと呼ばれる腸腰筋と腹筋群のトレーニングです。

頭を上げたまま行うことで上部体幹のトレーニングとしても効果的です。ご高齢にとっては難易度も高くなる運動ですので疲労には注意して行いましょう。運動の際は、膝を胸につけるようにリズムよく交互に足上げをおこないましょう。

【回数】
左右の足を交互に10回を目安に行いましょう。

腸腰筋トレーニング|仰向け×チューブ


こちらの運動は、セラチューブ(セラバンド)を活用した腸腰筋のトレーニングです。

このチューブでの腸腰筋トレーニングは、これまでご紹介した自重トレーニング(道具なし)が可能な方に勧めていきましょう。チューブは両膝の下に一周巻きつけ、片膝をお腹につけるように交互に動かします。

【回数】
左右の足を交互に10回を目安に行いましょう。

下半身の引き締めや筋力アップに効果が期待できるセラバンドを活用したトレーニングについて知りたい方は、ぜひこちらの記事をご一読ください。
▶︎セラバンドの筋トレ特集|下半身の効果的な鍛え方【12選】

腸腰筋トレーニング|仰向け×チューブのサイクリング


こちらの運動もセラチューブを活用した腸腰筋のトレーニングです。

先ほどのチューブトレーニングに加えて両足を床から浮かせ、寝たまま歩くようにイメージして交互に足上げを行うことでより効果的に腸腰筋を鍛えることができます。さらに負荷を強くする場合は、セラバンドを2重にする、また負荷量の強い赤色のチューブを活用することをオススメします。仰向けの腸腰筋トレーニングの中では難易度が高くなりますのでご高齢者の中でもアクティブな方に勧めていきましょう。

【回数】
左右の足を交互に10回を目安に行いましょう。

腸腰筋トレーニング|座位×足踏み運動


デイサービスなどの介護事業所では、ご高齢者に仰向けに寝てもらうことがなかなかできません。そんな場合は、椅子に座って安全にトレーニングを行うことをオススメします。

まずこちらの運動は、椅子に座って足踏みを行うことで腸腰筋を強化することができます。いつもよりも膝を高くあげるように意識しましょう。さらに音楽に合わせてテンポよく手足を大きく動かすと楽しみながら取り組むことができます。

【回数】
左右の足を交互に20〜30回を目安に行いましょう。

腸腰筋トレーニング|座位×クロス運動


この運動は、さらに難易度をあげて、対側の肘と膝を合わせることで腸腰筋や腹斜筋を鍛えることができます。さらに骨盤の引き上げることができるので姿勢保持能力や歩行時の振り出しを円滑にする効果が期待できます。

ご高齢者や転倒の危険性がある方は、椅子の背もたれに背中をつけて行いましょう。

【回数】
左右交互に20回を目安に行いましょう。

腸腰筋トレーニング|座位×ボール運動


こちらの運動は、ゴムボールを使った腸腰筋のトレーニングです。

ボールを落とさないように足をあげることで腸腰筋や腹筋の筋力アップに効果が期待できます。腸腰筋は上半身と下半身を繋ぐ歩行に重要な筋肉です。歩行に不安があるご高齢者の運動としておすすめの運動です。

【回数】
10秒間×5〜6回を目安に行いましょう。

腸腰筋トレーニング|座位×ボール×膝伸ばし運動


こちらの運動は、椅子に座ってできる太ももや腹筋に効果的なボール体操です。

ボールを落とさないように両足で挟み、膝を伸ばすことで内ももの筋肉や腹筋群、腸腰筋のトレーニングに効果が期待できます。太ももとお腹の筋肉は、膝や股関節の安定性に重要な部位です。ご高齢者の介護予防として取り組んでみてはいかがでしょうか。バランスに不安がある方は、背中を椅子の背もたれにつけて行うようにしましょう。

【回数】
3秒間かけて膝の曲げ伸ばし×10回を目安に行いましょう。

腸腰筋トレーニング|座位×サイクリング運動


こちらの運動は、足を自転車のペダル漕ぎのように動かすことで腸腰筋や腹筋を鍛えることのできるトレーニングです。

今回ご紹介した腸腰筋のトレーニングの中でも上級者向けのトレーニングですので、ご高齢者の中でもアクティブな方、これまでご紹介したトレーニングが難なく取り組める方におすすめです。

※画像では背もたれを使用していませんが、バランスに不安がある方は椅子の背もたれを活用して行うようにしましょう。

【回数】
10回を目安に行いましょう。

腸腰筋トレーニングのまとめ

今回は、ご高齢者でも取り組める「仰向け姿勢」と「座位姿勢」の腸腰筋のトレーニングをご紹介しました。

ご高齢者は年を重ねるにつれて筋力の低下は否めません。そのため体の軸として重要な腸腰筋を早期から鍛えて姿勢の改善や転倒予防、如いては介護予防に努めていきましょう!


腸腰筋に関しては、ご高齢者やデスクワーカー、長距離ドライバーなど長時間椅子に座ることが多い方は筋肉の柔軟性が低下してしまうことがあります。腸腰筋が縮んだり、硬くなっていると腰痛を引き起こす場合もあります。
 

【終わりに】
いかがでしたか。今回は、ご高齢者向けの腸腰筋トレーニングをご紹介しました。腸腰筋は最近のトピックスでもあるのでぜひ挑戦してみてください。

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この記事の著者

作業療法士  大屋 祐貴

作業療法士として、回復期リハビリテーション病院や救急病院、訪問リハビリに勤務し、医療・介護現場の幅広い分野を経験。現場のリハビリテーション技術を高めるために研修会の立ち上げ等を行う。

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